かりそめの妻を演じることに疲れました。そろそろ、離婚しましょう。

槙村まき

本編


「カミール。私と、離婚してほしいの」

「……っ、なんだって?」


 驚愕に見開かれる橙色の瞳。

私の言っていることが全く理解できていないのだろう。彼はすぐに悲しげな顔をすると、すがるような瞳を向けてきた。


「嘘だよね、アニタ。せっかく僕たちは、想い合うことが・・・・・・・できたのに」


 その言葉が重く私の胸に響く。

 だけど私は表情に出すことなく、答えた。


「本当よ。もう五年も経ったんだもの。離婚するには充分な期間だわ」

「だが、僕にはもう、君しかいないんだっ」


 もしいまの私たちの光景を、事情を知らない人たちが見たら驚くかもしれない。

 それほどまでに、私たちエルランド夫婦は喧嘩をしたことがなかった。

 ――いや、喧嘩をするほどのことがなかった、ということのほうが正しいだろう。


 世間でのエルランド夫婦の関係は良好だった。常に仲睦まじく、夫は妻を支え、妻は夫を慕う。お互い愛し合う、まさに理想の夫婦。


 だけど、それは仮初だった。

 私たちは騙していた。お互いの家族や、共通の知人を。


 このことを知っているのは邸の使用人と、幼馴染みである私たち四人・・だけ。

 私とカミールは、いわゆる仮面夫婦だった。

 

 そのはず、だったのに――。


「僕が悪かったんだ。ずっと傍にいてくれていたアニタのことを蔑ろにしていた。本当の愛は別にあると思っていたから、ちゃんとアニタと向き合うことができていなかった」


 すまない、すまないと泣きじゃくる夫。

 いつも柔らかな笑みで見つめてくる瞳から涙をこぼし、縋るように近づいてくる。

 彼の手が伸ばされて、私は反射的にその手を払った。


「もう終わりにしましょう」


 私の言葉に、絶望するかのようにカミールの顔が歪んだ。

 彼がもっとはやく私のことを見てくれていたら、結末は変わったのかもしれない。

 そんな考えが過るが、私とカミールの関係は出会ったあの頃から全く変わっていないのだ。



    ◇



 カミールと出会ったのは、五歳の時だった。

 親同士が親友だという理由から、子爵令嬢の私はよくエルランド伯爵家に連れて行かれた。伯爵家長男であるカミールと同い年だということもあったのだろう。


「僕はカミールだよ。よろしくね」


 柔らかなブラウンの髪に、夕陽のような燈色の瞳。どこか中性的に見える彼は、柔らかい微笑みを浮かべていた。


「私は、アニタです」


 私はたどたどしく挨拶をしながらも、彼の笑みから目が離せなかった。

 一目見ただけで、彼の虜になってしまったのだ。


「さあ、エルシーも挨拶をして」


 そんなカミールの影に隠れるように、その少女はいた。

 透き通る金髪に、空よりも青い瞳でおずおずと見上げるその姿はさながら天使のようだった。


「……エルシー、です」


 メイドの娘だと聞いた時は驚いたぐらいだ。

 もし彼女が貴族令嬢であれば、社交界でひときわ咲き誇る花になっていただろう。

 それほどまでに愛らしく、守ってあげたくなるような庇護欲をそそる少女だった。

 

 メイドの娘である彼女は、歳が近いからという理由でカミールの遊び相手になっていた。

 だから必然に私とも遊ぶようになり、そして私は次第に理解するようになった。

 夕陽のような瞳が誰に向けられているのか、その口が誰を愛おしく呼ぶのか。


 ずっと傍で見ていたから、私はすぐに気づくことができた。たしか、八歳ぐらいの時だったと思う。

 それから私は自分の気持ちを隠すことにした。


 カミールと私の婚約が結ばれたのは、十五歳になった時だった。

 前から噂をされていて、いつかはこうなるだろうという予感はお互いにしていた。カミールは嫌な顔ひとつしないで私との婚約を受けて、私は少し複雑な思いでそれに応じた。


「アニタ。婚約者になったけれど、これからも変わらずによろしくね」

「ええ、もちろん」


 彼の言葉に反論することはしなかった。婚約者になったら彼は私を見てくれるだろう――なんて、甘いことも考えたりしなかった。

 彼の瞳が常にエルシーに向けられているのを、私は痛いほど知っていたからだ。


 婚約してからも変わらない、私たちの関係。

 その関係が、結婚してからも変わるなんて、期待もしなかった。


 十八歳の時、私たちは神の前で夫婦の誓いを立てた。

 そして訪れた初夜で、カミールから言われたのだ。


「アニタ。前から言っていると思うけれど、僕は君を愛することはできない」

「……ええ、知っているわ」

「だから、白い結婚をしたいんだ」

「……もちろん」


 子供ができない夫婦が、社交界でどう思われるのか、それを知らないカミールではないだろう。

 だけど私は耐えることにした。彼のことを理解して、傍にいてあげられるのは自分だけだ。そう思っていたから。


 結婚してからも、メイドの娘を傍に置いているカミールを咎める人は、邸宅にはいない。カミールの両親は隠居してしまい、邸の使用人にとってもエルシーはいるのが当然の存在だった。


 エルシーはメイドの娘だから、伯爵家を継ぐカミールとの間には超えられない身分の差があった。

 だからカミールは自分を理解して傍にいてくれる、仮初の妻が必要だった。

 それに選ばれたのが、幼少期から一緒にいる私。

 ただ、それだけのことだ。結婚しても、私たちの関係は何も変わらず、常にカミールの夕陽はエルシーを優しく照らしていた。


 表向きは仲睦まじい夫婦を演じて、邸ではただの友人のように接する。

 その生活にもすっかり慣れた頃だ。運命が変わったのは。


 いつものように寝室で目を覚ました私は、部屋の外が騒々しいことに気づいた。

 呼んだ使用人から事情を聴くと、告げられたのは衝撃的なことだった。


「エルシー様がいなくなりました」


 その言葉を聞いた瞬間、私は沸き起こる喜びに身を震わせて、同時に自己嫌悪した。


『カミール様は、アニタ様と結婚をしたのに、どうして私のところにくるのでしょう』


 メイドの娘であるエルシーは、自分の境遇に戸惑いを感じていた。

 自分は平民で、主の息子であるカミールと結ばれることはない。カミールから一途な愛を向けられるたび、それは一時の迷いだと信じてすらいた。


 だから結婚してから私を放ってエルシーばかり構うカミールとどう接すればいいのかわからなかったのだろう。

 エルシーはカミールの好意を重く感じていて、私に対して「ごめんなさい」と何度も謝った。その度に私は、「気にすることないわ」と慰めた。


 だけどそれもとうとう限界に達したのかもしれない。

 エルシーがいなくなったのは、結婚してから三年が過ぎた頃のことだった。


 エルシーがいなくなり、カミールはすっかり落ち込んでしまった。

 本当は国中をくまなく探していたいと思っていたのかもしれない。

 エルシーの書置きには「絶対に探さないでください。カミール様、アニタ様とお幸せに」と書かれていた。カミールは他人の嫌がることができない性格だから、躊躇してエルシーのことを探さなかった。ただ、エルシーが帰ってくるのを信じて待つと口にしていた。


 だけどエルシーは一生、戻ってくることはないだろう。

 そう確信していた私は、カミールの傍でずっと彼を励まし続けた。


「きっといつか帰ってくるわ」


 そんな嘘を吐きながら。

 エルシーではない私にできることは、それぐらいだったから。



 風向きが変わったのは、エルシーがいなくなって半年が経った時だった。


「アニタ、いままでごめん」


 突然、カミールが謝罪を始めたのだ。


「エルシーは確かに大切な存在だった。――だけど、この半年ずっと考えていたんだ。落ち込んだ僕を励ましてくれて、一緒に前を向いて行こうと言ってくれたのが誰だったのか」


 それまで落ち込んでいたのが嘘かのように、カミールはすっかり復活していた。


「アニタ。君はずっと僕の傍に居てくれた。僕は結婚してから、ずっと君の優しさに甘えて、利用してきたのにも関わらずだ。――これからは、妻である君を大切にしたい。今更かもしれないが、一緒に幸せになってくれないかい?」


 燈色の瞳に照らされて、私は思わず涙を流していた。


 やっと、彼が自分のことを見てくれた。

 そう思ったからだ。


 それからの彼は、いままで以上に優しくなった。

 仮面夫婦ではなく、本当の夫婦のように仲睦まじく、演じるでもなく振舞うのに歓びを感じていた。


 だけど、私は薄々気づいていた。

 彼の向ける瞳に映っているのが本当は誰なのか。

 私を見ているようで、見ていない橙色の瞳。


 幼馴染である私たちは、同じ時を過ごしていた。

 私とカミールにエルシー、それから寡黙で影のように佇んでいただけの黒髪の少年。 


 カミールが私に愛情を向けたのは、ただ私を通して想い出のエルシーを見ているだけに過ぎなかった。

 その証拠に、カミールは一度も私と床を共にしようともしなかったから。


 ――代わりにされるのは、もう耐えられない。

 カミールのためにも、自分のためにも、離れたほうがお互いのためになるだろう。


 そう思い、私はカミールに離婚を切り出すことにしたのだった。



    ◇



「貴族の結婚は、家門同士の結びつきだろう? それなのに、離婚なんてできるのかい?」


 顔面を蒼白にして黙っていたと思えば、カミールの口から出てきたのはそんな言葉だった。

 私は静かな眼差しと声で、反論をする。


「できるわ。貴族の結婚でも、五年経って子供ができなければ、離婚は簡単にできるのよ」

「……子供?」


 カミールが呆けた声を出す。

 まさか、本当に気づいてなかったというの?


 エルランド夫婦は、社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だ。

 だけど結婚してから子供の噂が少しも聞こえてこないことに、疑問を持っている人もいる。


 知り合いには、「私たちはまだ二人っきりの生活を堪能しておきたいの」と答えているが、それも限界があるだろう。

 後継ぎが産めないのは、貴族夫人としては致命的だ。

 だから貴族は結婚してから五年が経っても子供ができなければ、離婚することができる。


「……子供のことはすまないと思っている。だけど、両親はどう説得するんだい?」

「あなたの両親からも、私の両親からも、もう許可を貰っているわ」

「なんだって!」


 私の両親はともかく、カミールの両親はエルシーの存在を容認してきていた。

 だけどまさか息子が結婚してからもエルシーに夢中になり、妻と床すら共にしていなかったとは思ってはいなかったのだろう。手紙にそのことを書いて送ると、カミールが出かけている時に邸宅にやってきて、散々謝られた。そして私が離婚したいという話をすると、了承してくれた。


 私の両親はエルシーのことは知っていても、カミールとの関係は詳しくは知らなかった。

 だから実家に帰省したときに離婚する理由を話すと、二人は顔を青くしたり赤くしたりして怒ってくれた。何も知らなかった自分たちの不甲斐なさを謝罪されたけれど、両親に隠していたのは私だ。 

 両親が私のために怒ってくれたのは嬉しかった。

 離婚はすんなりと認められた。


 あとは、カミールに離婚届にサインをしてもらうだけ。


「……確かに僕は結婚してから君に対して誠実ではなかったかもしれない。だけど、エルシーがいなくなって気づいたんだ。僕の傍には幼い頃から、ずっと君がいたことに」


 私はただ、彼の傍にいられれば良かった。

 愛されなくても、その夕陽が向けられなくても。


 だから彼から愛情を向けられたとき、心の底から喜んだ。

 これまでの埋め合わせをするように、カミールは私のためにいろいろなプレゼントをくれた。


 だけど、それが一年近く続いたある日、気づいたのだ。

 いや、もしかしたらもっと早くに気づいていたのかもしれない。ただ目を逸らしていただけなのかもしれない。


「カミール。あなたは覚えているかしら? 私に、青い薔薇の花束をくれたことを」

「ああ、もちろんだよ!」

「その時、言っていたわよね」


 ――アニタの一番好きな花だよね。特に青い薔薇が、好きだったはずだ。


「そのとき、思ったの。薔薇は好きでも嫌いでもない花だけれど、あなたからもらえるのならきっと好きになれるだろうって。でもしばらく経って思い出したわ」


 薔薇の花を好きだったのは、エルシーだ。

 エルシーは特に自分の瞳と同じ青い薔薇を好んでいた。


 最初はほんのちょっとした違和感だった。

 だけど、その違和感は少しずつ積もり続け、私は思い知ってしまった。


 カミールがくれた青い薔薇も。

 カミールが連れて行ってくれた甘いスイーツのお店も。

 カミールが似合うと言ってくれたあのドレスだって。


 あれはすべて、エルシーの好みだったのだ。


 私は薔薇といえば赤色が好きだ。私の瞳の色だから。

 スイーツは甘さ控えめが好きで、フリルの多い可愛らしいドレスよりもすらっとした大人っぽいドレスのほうが好きだ。


 カミールは、私を大切にすると言っておきながらも、私をただエルシーの代わりにしていただけだった。


 それに気づいた私は、体から体温が奪われるような冷たさを感じた。

 カミールはどこまで行っても、エルシーしか見ていない。

 私なんて、眼中にないのだろう。


「カミール、私は薔薇が特別好きというわけではないの」

「え? でも……」

「よく思い出して。青い薔薇を好きなのは、エルシーだったでしょう?」

「……っ!? た、確かにそうだったけど」

「それにあなたからもらったプレゼントも、私よりエルシーに似合うものだったわ」


 可愛らしい天使のようなエルシーと私とでは、物の好みも似合うもの違う。


「カミール。あなたは、幼馴染みである私を通して、想い出のエルシーと付き合っていただけなの。あなたは私のことなんて、本当は愛していないのでしょう?」


 何か言いかけて、だけど言葉にならずにカミールは拳を握りしめる。

 その切なそうに伏せられた瞳が、悔しそうに引き結んだ口が。


 ――もう、答えは決まっているようなものだった。


「だから、離婚しましょう。私は、誰かの代わりになるのはもう嫌なの」

「……だが」

「カミール。これは最後のお願いよ。そろそろ、私を解放してくれない?」

「……っ」


 燈色の瞳が縋るように私を見上げた。

 君まで僕を捨てるのか。そう言っているかのような瞳を、ただ静かに見つめ返す。

 睫毛が震えて、燈色の瞳が伏せられる

 長く思える沈黙の後、カミールは短く呟いた。


「わかった」



    ◇◆◇



 離婚届が受理されてすぐ、私はエルランド伯爵家を出た。

 

 これからはアニタ・エルランドではなくなる。

 子爵令嬢に戻るのか、それともただのアニタになるのか。

 選択権は無数だ。五歳の頃から、私の中心にいたのはカミールだった。


 だけど、それももう終わりだ。

 もう彼の幻影を追い求めることもしない。 

 胸の痛みは残っているけれど、私は自由に生きるのだ。


 エルランド家の邸宅を出てから、私は一度も振り返ることなく歩きつづけた。実家からは馬車を出すと言われていたけれど断っている。歩きたい気分だったのだ。

 エルランド邸が見えない距離まで来たとき、私はやっと振り返った。

 そしてずっと背後を影のように付き添ってくれていた、に話しかける。


「ノルド。あなたも、もう自由よ。もう私の傍にいる必要はないわ」

「……」


 執事服を纏い、影のように黒い髪に黒い瞳の男性――ノルドは、もともとは捨てられていた孤児だった。

 幼い頃そんな彼を見ていられずに子爵邸に連れて帰った。両親はいい顔をしなかったものの、私を命を懸けて守るという約束をして、私の従者として仕えることになった。


 幼い頃から口数が少なく、たまに存在を忘れそうになるほど希薄な彼は、文句も言うことなくずっと私の傍に仕え続けた。

 幼い頃、カミールと会った時も、婚約した時も、結婚してからも。

 ノルドはいつも一歩下がったところに立ち、私たちを見ていたように思う。誘ったら一緒に遊んでくれたけれど、いつもどこか距離を感じていた。


 本当は結婚した時に、ノルドとの縁は切るつもりだった。ずっと私の傍に縛り続けておくことはしたくないと思ったから。ノルドに問うと、彼は首を振ってついてくると言った。


 だけど、それももうお終いにしたほうがいいだろう。

 私は離婚をしてカミールから解放されて自由になったのだから、ノルドも解放してあげたい。


 彼は黒い瞳で私をじっと見つめたあと、重い口を開いた。


「俺は、これからもあなたの傍にいたい」

「……でも、それは幼い頃の約束よ」

「それでも、あれは俺にとって一生の約束だった。本来なら俺はあの時、死んでいたはずだったのだから。その命を助けてくれたあなたを守るのは当然のことだ。でも――」


 ノルドがどこか言いにくそうに口ごもる。

 それから息を吐きだすように、言葉を紡ぐ。


「俺の存在のせいで、あなたはあの男のことを思い出すかもしれない」


 ノルドの言葉に、私は大きく目を見開く。

 確かに幼い頃から同じ時を過ごしてきたから、その可能性もある。

 だけど、それはあまりにも――。


「叶うことなら、俺はあなたの傍にいたい。なぜなら、あの日――あなたに命を救われたときから、ずっと、あなたを愛しているからだ」

「――っ」

「あなたの傍にいられるのなら、あの男の代わりにしてくれてもいい」

「それは、できないわ!」


 誰かの代わりに愛される。

 それがどんな傷を生むのか、私が一番よく知っている。

 だから何があろうと、ノルドを代わりにすることはできない。


「やはりそうか。それならこれからも、俺は影に徹しよう。あなたが誰を好きになろうと、誰と結婚しようとも」

「ノルド……っ」


 彼がどれだけ私のこと好きなのか、その淡々としながらも感情のこもった言葉から感じられる。

 だけど私は彼をその対象としてみたことがなかった。

 ノルドは居て当たり前の存在だと、そうとしか認識していなかった。


 私は、なんて残酷なことを。

 もっと早く彼を解放してあげていれば――いや、恐らくノルドはなにがあろうとも私の傍を離れなかっただろう。私がカミールに対して、そうだったように。


「――ごめんなさい。私はいますぐ、あなたの気持ちに応えることができないわ」

「ああ、知っている」

「あなたのことを、好きになれる保証もないの」

「それでもかまわない」

「……ノルド。本当に私の傍を離れないの?」

「俺の気持ちは変わらないが、受け入れる必要はない。あなたは、あの男を想っていた期間が長すぎるから」


 ふと、ノルドが距離を詰めてくる。

 その手が伸びてきたと思うと、頬に優しく触れた。


「だけど許されることなら、ほんの少しだけでも、俺を意識してほしい」


 なぜだか触れられた頬が熱くなる。

 初めてだった。こんなにも熱烈な、愛情のこもった眼差しを向けられるのは。


 ノルドが優しく笑みを浮かべる。

 いつも無表情で、寡黙に仕えていた彼が笑ったのを目にしたのは初めかもしれない。


 私は彼のことを好きになれるのだろうか?


 その不安はノルドの瞳を見た瞬間、和らいでいた。

 それほどまでに彼の瞳は真っ直ぐ、一途に私を見ていた。


 これからもノルドが私の傍にいるのなら、もしかしたら――。


 そんな期待を胸に、私は未来に思いを募らせていた。


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かりそめの妻を演じることに疲れました。そろそろ、離婚しましょう。 槙村まき @maki-shimotuki

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