猛獣系美少女が本当は猫系デレツンデレ美少女だということは同盟組んだ俺しか知らない

雪宮 楓

第1話 ぶつかりました

 高校2年生の4月。学校には慣れ、クラスには……まあなんとか馴染んでたはずなのにクラス替えが発生した。まあ、仕方ないことだとは思うんだけど。


「中村、クラスどうだった?」


 学校で唯一の友人と言っても過言では無い桜宮が昇降口で肩を叩いてくる。僕は特に考えることなく2組、と答えた。何組だろうが、大して変わらないしね。


「おお!俺も2組!一緒だな!」


 桜宮が嬉しそうに笑いかけてくる。俺もそれは素直に嬉しかったから照れながらも笑い返した。桜宮が同じクラスにいてくれるならきっと安泰だろう。


「おはよう、中村くん」


 そこで鈴のような可愛らしい声音に呼びかけられて俺は視線をそちらに跳ねるように向けた。そこに立っていたのは去年隣のクラスだった楓原 天音だ。今日も柔らかそうな色素の薄いボブヘアが可愛らしく揺れていて目を釘付けにされる。


「お、おはよう。楓原」


 僕は一瞬口篭りながらも咄嗟に挨拶を返す。不自然な挨拶ではなかったか気になった後に、自分の身だしなみなんかが気になり始めてしまった。そんなこと気にしたところで楓原は眼中に無いだろうけど。


「中村くんは何組なの?私は2組」


 楓原が指をピースの形にして僕に突きつけてきた。その指の意味するところは2なんだろうが、その無邪気な仕草が可愛くて悶えそうになる。ていうか、2組……だと……!?


「お、俺も2組!今年は一緒だな!!」


 歓喜で打ち震える体を必死に押さえつけて俺は大声を出した。楓原はと言うと一瞬目をぱちくりさせて驚いた表情をした後、にっこりと微笑み返してくれた。それはもう天使の微笑みの如く……。


「一緒だね。1年間……あれ?2年間かな?よろしくね!」


 2、3年はクラス替えがなかったはずだからこれから2年間同じクラスなはずだ。ここまでの心情やら態度やら見ていれば分かると思うが俺は楓原が好きなのだ。去年、文化祭実行委員を一緒にやってから。


 ――「中村、くん……だよね?よろしく!」


 陰キャでモブモブな僕の名前を把握して笑顔で話しかけてくれた。同じ委員だからと全員分の名前を把握している責任感の強さと誰にでも分け隔てなく接する優しさに胸を鷲掴みにされた。もちろん笑顔の可愛さにやられた部分もあるけれど。


「おう、よろしく!」


 僕が陰キャでモブなのは変わらないかもしれないけれど今年のクラスはなかなかにいいメンバーかもしれない……。なんて喜んでいるとクラスの中から男子たちの話し声が聞こえてきた。なにやら表情は明るくない。


「おい、今年あの猛獣と同じクラスだぞ?」


「見た目可愛くても中身があれじゃなあ……。黙ってれば可愛いんだけどな」


 猛獣……?この学校にいてそんな噂は聞いたことがなかったので俺は首を傾げた。男子たちの会話に楓原の表情が少し曇った。ような気がした。


「中村くん、入らないの?」


 曇ったように見えたのは一瞬でまたいつもの明るい笑顔に戻った楓原が俺を教室に入るよう促す。でも俺はどうしようもなく自分の見た目が気になって仕方がなかった。だから、顔の前で手をパチンと叩き合わせた。


「1回トイレ行ってくるわ。また後で」


 なんか今の仕草、めっちゃトイレ行きたいヤツみたいじゃなかったか……?と1人不安になりながらも教室に何も気にすることなく入っていく楓原の背中を見送って安心した。ていうか、背中すら可愛いな……。


 なんて思ったニヤニヤしていることを自覚しながら廊下を歩いた。とりあえず前髪のコンディションを……。と思ったところで、何かにぶつかったような衝撃が体に走った。


「……痛いんだけど?」


 頭の中が楓原のことでいっぱいで周りが見えていなかった。気がつけば俺より頭一つ分身長の低い女子が目の前にいた。そして俺を見上げながら――ものすごく睨んでいる。


「す、すまん!俺がぼーっとしてたから!!」


 俺は慌ててその女子に謝る。なんかすごい剣幕だし、ここは謝罪の一辺倒だ!!俺は頭をペコペコと下げた。


「鼻の下だらしなく伸ばしやがって、ぶつかってきてんじゃねえよタコ」


 女子は頭を下げた俺のつむじに向かって毒づいた。鼻の下伸びてたか……確かに楓原のこと考えてたからなぁと納得する。それにしてもタコて、小学生男子みたいな悪口の言い方……。


「すまん、怪我したか?」


 そこまで強く当たった気はしないけれど一応聞いておく。おおごとになったら嫌だし。こういうのは穏便に済ませられるように可能性は全部潰しておくのが得策である。


「こっち見んな、気持ち悪いんだよ!!」


 が、しかし。心配も虚しく彼女は威嚇するように大声で言う。そ、それは誠に申し訳ありませんとしか言いようがないけれども……。


「この、脳内花畑男が!!」


 と、言い残して彼女は僕の横を颯爽と通り過ぎて行った。俺は動くことが出来ずにその場に固まってしまう。さ、さっきから思ってたけどさ……そんなに言う必要なくない!?あたり強すぎない!?って思うのは俺だけだったりするのか!?誰か、答えて!

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