打ち上げ花火
3
「いや……」
電話越しに店主が困惑しているようだ。
「何が言いたいこどでも?」
イェーガーが尋ねる。
「まさか、近距離に接近して撃つとはな……」
「〝狙撃〟とは『銃などで、ある特定のものをよく狙って撃つこと』だ」
「むう、その発想は無かった……」
「常識に囚われるがらいけね」
イェーガーは得意気に話す。
「しかし、カメラに写っていないか?」
「イベント会場は固定カメラなどはなく、数人のスタッフの手持ちのカメラが数台だったのが幸いだった。警報ベルが鳴り響いたとき、スタッフも右往左往していだ。あれではわだすの動きは完全に死角になっている」
「なるほど……」
店主が感心する。
「とはいえ……」
「え?」
「やっぱし、東京でのミッションは楽でねえ。田舎者は田舎に引っ込んでいるべきだ」
「まあ、そういうな、今後は東京を拠点にしてもらっても構わないぞ」
「いや、構うって」
「協力者は多い。衣食住の心配は要らない」
「そんたごとは心配してね」
「なに?」
「わだすは命の心配をしている……」
「誰の?」
「わだすの!」
「ははっ、お前さんなら大丈夫だろう」
「……何を根拠に?」
「今までだって不可能を可能にしてきたじゃないか」
「可能だけどリスクさ伴うミッションを数多くこなしてきただけ、不可能なものはどうあがいても不可能だって。無理なもんは無理ってこと」
「……次の依頼なんだが」
「おい!」
「3000万出すという」
「引ぎ受げるべか……!」
イェーガーが勢いよく応える。店主が苦笑する。
「ふん、現金なやつだな」
「それはお互いさま」
「ただ、これは苦労すると思うぞ」
「ああ、この依頼人の話か……」
「お前がやりとりを進め、依頼を承諾したんだ。ケジメは取れ」
「それを言われれば弱ぇ……」
「それが終われば、一旦秋田に返って来ても構わん」
「本当が⁉」
「ああ、お前相手に嘘を言ったら、命がいくつあっても足りんだろう」
「よく分がってらっしゃる」
「ただ、このミッション、大変だぞ?」
端末に送られたデータをイェーガーが確認する。
「ふむ、日中は防弾ガラス付きの車で移動。お勤めのビルも、お住まいのマンションも防弾ガラス完備……隙が見当だらねえなあ……!」
「どうかしたか?」
「夜にまた連絡さちょうだい」
「夜に? 分かった……」
そして夜になった。店主がイェーガーに連絡する。
「ああ、どうも、おばんです」
「そんな挨拶はいい。どうなっている?」
「良いニュースと悪いニュースがあるよ?」
「悪いニュースを先に聞いてみようか」
「帰りの秋田新幹線、満席だったよ」
「⁉ ちょ、ちょっと待て、なんでお前、帰ってくる気なんだ⁉」
「さっと待って。良いニュースがある……」
「……なんだ?」
「例のターゲット、プライベートヘリで都内上空を飛び回る素敵な趣味をお持ちでね……」
「まさか……!」
「そのまさか、秋田新幹線の上から狙撃する……! 動いでらものから狙われるどは、夢にも思わねべね……!」
(主人が不正の全責任を押し付けられ、命を絶ちました。あいつに鉄槌を……!)
「季節外れの花火、奥さん見てけだがな~」
「ロケットランチャーとは滅茶苦茶やるな、跡形も残さないとは……だが、見事だ」
「悪い娘はイェーガーだからね~さて、東京でのミッションも一区切り……寝るか」
イェーガーは秋田新幹線こまち号をベッド代わりにして、眠りにつくのであった。
スナイパーは秋田美人~悪い娘はイェーガー~ 阿弥陀乃トンマージ @amidanotonmaji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます