第6話

カザミの朝はまず対モンスター用体術の型の訓練から始まる。シャドーボクシングの要領で拳打や蹴りを繰り出す。


「良し、こんなものか。シャワー浴びて準備しよ」


 今日、カザミは日本で初めてのギフターを輩出したギフターの名家、御剣家から昼食会の招待を受けていた。先日謎の現象でD級ダンジョンに出現するはずのないAランクモンスター、レッサーフェンリルが現れその場に居合わせた御剣家次期当主とその一行を助けたお礼をしてくれるようだ。


「じゃあ母さん、行ってくるよ」


「粗相のない様にね〜」


 いつも通りの母親の対応に息子やがとんでもない場所に行くのだから緊張感を持てよと思ったカザミだったがそんな事を言っても無駄なのは重々承知なので何も言わずに家を出る。


「はぁ……六本木支部までステータスの力で行ければ良いのになぁ……」


 ギフターは基本的にダンジョン以外での能力の使用を推奨されていない。緊急時にはその限りではないが、ダンジョンの外では普通の人間と同じ様に過ごすことが推奨されており、理由としてはギフターを敵対視する団体やギフターを人類の上位種と声高らかに叫ぶ集団をヒートアップさせないためだった。


「まあ、そこまで遠くないから良いんだけど」


 カザミの家から六本木支部は徒歩で20分程度の場所にあるので運動にもなるし本人もちょうど良いと思っている。


「御剣家の人、もう来てるかな?」


 支部の前に着き周りを見渡す。すると黒塗りの高級車がいやでも目に入る。


「矢白 風見様ですね。次期当主の命によりお迎えにあがりました」


「はい。よろしくお願いします」


 促されるまま車に乗り込むと直ぐにエンジンがかかり、魔石技術がふんだんに組み込まれた現代の自動車はほとんど音を立てず、排気ガスを漏らす事もなく、魔力を使い道路を進んでいく。


「あ、もう見えるんですね……」


「はい。あちらが御剣家の本邸になります」


 六本木支部から少しだけ車を走らせると遠目にはすでに和風の城と言って差し支えない御剣家本邸が映っていた。


「あんなに大きいと掃除とか大変そうですね」


「清掃を得意とするギフターも居ますので、ご心配には及びませんよ」


 カザミは心の中で御剣家は一体どんな数のギフターを擁しているのかを想像した。


 (きっと色んな特殊技能を持ったギフターがたくさんいるんだろうなぁ)


 でなければギフターを清掃に使うなどあり得ない。きっと日本でそれが可能なのは御剣家だけだろう。


「矢白様、到着いたしました」


 カザミが御剣家の壮大さに想像を膨らませている間に到着した様で目の前にはそれはそれは大きな門が待ち構えている。


「運転、ありがとうございました」


「無事に到着できて何よりです。さあ、こちらへ。次期当主がお待ちです」


 門を潜って御剣 翼がいると言う屋敷の奥へ向かう途中、突然に突飛にそれはカザミの瞳に映った。


 真っ白な髪に真っ黒な宝石の様に美しい瞳。腰には神々しい剣を携えておりその姿はおとぎ話に出てくる戦女神の様に見える。


 カザミはその女性にとても興味が湧いたが何故興味が湧いたかも分からないまま案内に従い翼の元に辿り着いた。


「矢白さん、本日はお招きに応じてくださりありがとうございます。丁度お料理も出来上がったところでしたので早速いただきましょうか」


 テーブルに広がる料理はどれも美しく盛り付けてありカザミの食欲を大いに誘った。味付けも考慮してくれたのか若者好みの濃い物になっていてカザミの箸が止まる様子はない。


「お姉さん!全部とっても美味しいよ!!」


「それは良かったです。ですが……お姉さんですか……」


「どうしたの?」


「矢白さんはわたくしの恩人なのですから是非名前で呼んでください」


「分かったよ、翼さん。これで良い?って言うか俺会った時の感じでずっと話しちゃってるけどもっと敬語とか使った方が良いかな?翼さん御剣の次期当主だし」


「ふふ、何度も言いますが矢白さんは恩人なのですから気にせずとも良いのです」


「良かった。じゃあさ俺の事も名前で呼んでよ、風見って名前何だかんだ気に入ってるんだよね」


「分かりました、カザミさん」


 その後も楽しく話しながら昼食会は終了し今は食後のティータイムを楽しんでいた。


「カザミさん、食後の運動などしたくはありませんか?」


「良いね、ダンジョンでも行く??」


「それも良いのですが、わたくしカザミさんに興味があると言ったでしょう?カザミさんの対人戦を見てみたいのです!相手ももう用意してありますから、お願いできませんか?」


「対人戦か……うん、良いよ。御剣家次期当主の頼みとあっちゃ俺も頑張らないとな」


 一瞬、カザミはガッカリした様な顔をしたがそれを隠す様に笑顔を貼り付けた。翼はカザミの雰囲気が変わった事に違和感を覚えたが手合わせの前で緊張したのだろうとその違和感を片付けた。


 カザミは翼の案内に従って御剣家の訓練場にやってきた。広い訓練場の隅々には次期当主が興味を持つ少年の模擬戦を見ようと御剣家に関わるギフターが押し寄せていた。


「カザミさん、こちらがお相手を務めますわたくしの筆頭従者、剣ノ 千草つるぎの ちぐさです。御剣の分家の出身でAランクのギフターです」


「矢白様、本日はよろしくお願いいたします」


 肩のあたりで切り揃えられた黒い髪に吊り目がちな赤い瞳の女性は深々と頭を下げた。


「こちらこそよろしくお願いします。Aランクのギフターが相手をしてくださるなんて光栄です」


「ではさっそく、始めましょうか。禁止事項は特にありません。過度な攻撃は訓練場の結界が防いでくれますのでご安心ください」


 ギフターが訓練を行う施設には魔石によるテクノロジーを駆使した『結界』というものが設置されており、移動などはできないが最初に設置した場所での致死性のある外傷を防いでくれる優れものであり、普通は統括機関の訓練場にしかないのだが御剣家ほどの大家になると個人で所有しているらしい。


「審判はわたくし、御剣 翼が執り行います。両者抜刀!、構えて……始め!!」


 翼による合図とともに千草は腰に携えた2本の片手剣を抜き放つと両手に構える。


「二刀流か……」


「矢白様、武器は出さないのですか?」


 そう言いながらも試合は始まっているため、千草はカザミに剣戟を浴びせる。


「武器なんて、必要ないよ……」


『ヤシロ カザミの対人戦闘を確認。特殊技能、【共鳴きょうめい】強制発動。ヤシロ カザミが人に負ける事は何があっても許されない』


「なに?これは神の声?」


 ギフターがダンジョン内で職業を取得した時や偉業を成し遂げた時に聞こえる無機質な声。ギフター達が神の声と呼ぶそれは通常、ダンジョン内でしか聞こえない。その上なぜか今回の神の声にはいつもはない感情の様なものが混じっており、訓練場にいたギフター達は混乱の渦中にいた。


「やっぱりダメか……久々だったから少し期待したんだけどな」


「矢白様、今のはなんですか?特殊技能の強制発動だなんて……」


「俺にも良く分からないんですよ。発動のトリガーは俺が対人戦を行う事。そしてその効果は……」


 【共鳴】

相手の思考、能力を数段上回る状態で戦闘中のみコピーする。相手がギフターの場合にはステータスの閲覧も可能。この特殊技能を持つ者が対人戦闘で負ける事は万に一つもない。


 

 ツルギノ チグサ

 年齢 21

 性別 女性

 職業 デュアルブレイド

 称号 なし

 レベル 51


 体力 C

 腕力 B++

 防御力 C

 速さ A

 魔力 C

 運 D

 《職業技能》

 【二刀流剣術】 LV5

 【疾風走法】 LV4

 【水剣】LV6

 【風魔法】LV3

 《特殊技能》

 【剣術適性】


『職業エゴイストと特殊技能、【共鳴】のリンクを構築。特殊技能【共鳴】は【利己的な共鳴】に変質。性能をアップグレードします』


 【利己的な共鳴】

 相手の思考、能力を戦闘中のみ数段上回る状態でコピーする。相手がギフターの場合はステータスの閲覧も可能。また戦闘終了時の戦績に応じて相手の技能を永久的にコピーできる。この特殊技能を持つ者が対人戦闘負ける事は万に一つもない。


「これだから人間との戦闘は好きじゃないんだよね……」

 

 


 


 


 


 

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誰よりも強くなりたい。戦闘狂な少年がいくダンジョン攻略〜最強職業と成長チートのエゴイスト @matupurinn

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