第5話

「翼様!ご無事ですか!!」


「え、ええ。こちらの方のおかげでレッサーフェンリルを討伐できてしまいました……」


「我々には見ているしかできず……不甲斐ない限りです」


「あんなモノが相手では致し方ありません。それよりも、申し訳ないのですが貴方達は先に出張所へ赴き、機関の方々に此度の異常の説明をお願いしてもよろしいですか?」


「は!承りました!」





「申し遅れましたが、わたくしは御剣 翼みつるぎ つばさ。Cランクのギフターであり、御剣家の次期当主です。本当に助かりました。ありがとうございます」


「御剣?お姉さんあの御剣なの?」


「はい。多分その御剣で相違ないかと」


 御剣家とは世界にダンジョンが現れ世界が混乱に陥った際、日本で初めて確認されたギフターの家系であり、その血を持つものは特殊技能に目覚めやすく優れたギフターが多い日本でも有数の名家であり、数々の企業を経営する資産家でもあった。


「へぇ……あの御剣の次期当主を助けたのか俺。鼻が高いや」


「本当に助かりました…貴方がいなければどうなっていた事か……そうだ、お礼もしたいのでお名前を伺ってもよろしいですか?」


「矢白 風見。16才高校生、一応Cランクのギフターだよ」


「Cランクでレッサーフェンリルを……末恐ろしい才能ですね」


「御剣家には劣るだろうけど一応俺も特殊技能持ちだからね、まあ今回の戦闘に関してはほとんど就けた職業のおかげなんだけど」


 特殊技能とは先天型のギフターが生まれつき持っている事が稀にある技能であり、職業を取得してから得られる職業技能よりも極めて強力なものが多いとされており、特殊技能を持つギフターを多数率いる御剣家は時に国家レベルの権力を有する。


「特殊技能にも興味はありますが、Cランクであんな火力を出せる職業などあったかしら……」


「まあそこはあんまり詮索しないでくれると助かるな。ギフターにとっては大事な商売道具だからね」


「ええ、仰るとおりですね。ですが私は貴方に興味が沸きました。此度のお礼もかねて後日わたくしの家に招待したいのですが……」


「ええ!良いの?!あのお城みたいな家でしょ?テレビで見た事あるよ!」


「ふふふ、そんなに喜んでもらえるとは思いませんでした。矢白さんはギフターですから学校への登校義務はありませんよね?」


「そうだけど」


「では、少し早いかも知れませんが明日のお昼などはいかがですか?昼食もかねて」


「分かった。あの大きな家に向かえば良いの?」


「いえ、我々がお礼をする立場ですから、お近くの統括機関支部までお迎えに上がります」


「至れり尽くせりだね」


「貴方はそれほどの事をしたのですよ?御剣の次期当主の命を救ったのですから」


 その後カザミはレッサーフェンリルが現れた事やその時の状況説明を少しだけした後詳しいことは御剣家の従者に任せ帰り道を歩いていた。


「明日……どんな料理が出るんだろう」


 そんな想像に胸を膨らませていると見慣れた我が家が見えてくるがいつもと少しだけ様子が違う事に気づく。


「人の気配が多い……父さんはまだ仕事だし、母さん以外に誰かいるのか?」


 基本的に来客のない自身の家に多数の気配を感知したカザミは少しばかりの疑念を抱きながら玄関のドアを開けた。


「ただいまー」


「あ、カザミ。やっと帰ったわね!お友達来てるわよ」


「あ!カザミ君だ!お邪魔してま〜す」


「突然ごめんなさいね、矢代くん」


「え?一之瀬さんに如月さん?なんで俺の家に?」


 カザミは訳がわからなかった。一之瀬 玲華とは確かに連絡先を交換していたが家の場所などは一切教えていない。にも関わらず二人の少女が自分の家で自分の母親と談笑している。


「ごめんごめん、ビックリしたよね。私たち同じ学校だったみたいで先生が入学から数回しか登校してこないカザミ君にプリントとか渡してきてくれって」


「え?!そうだったの!それは申し訳ないな……俺ダンジョンの事ばっかりで学校全然行ってなかったというか現在進行形で行ってないし」


「カザミ君が学校来てればもっと早く知り合えたのになー。クラスも隣だし同学年のギフターも少ないから尚更ね」


「一之瀬さん達がいるなら今度からはたまに行くようにするよ」


「たまにか……カザミ君は本当にダンジョンが好きなんだね……」


「ごめんなさいね、玲華ちゃん。この子は昔からこうで」


 矢白 風見と言う少年は物心がついた頃にはダンジョンへの憧れがとても強く、同年代の子供がする様な遊びをせずにギフター専門の家庭教師をつけてもらい戦闘訓練からギフターの基礎知識などを学んでいた。そのため友人と言える者はおらず、先日のファミレスでの食事はとてもこの少年に大きな影響を与えたのだった。


「本当にありがとうね、一之瀬さん、如月さん。また学校かダンジョンで」


「うん!私たちもカザミ君のランクに追いつける様頑張るからね!」


「そうね。目標は高い方が良いわ」


 最寄の駅まで二人を送りカザミは帰路に着く。そのまま直ぐに眠りに入るとカザミにとって慌ただしい1日が幕を開けようとしていた。

 

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