あやまち
冬咲 華
第1話 捨て子
薄暗い街頭の下、人通りの少ない道を歩く。
周りを気にしながら、人がいないことを確かめると、抱えていたものを、もう一度愛しそうに抱きしめる。
—— ごめんね、ごめんなさい……
女の頬に、涙が伝わる。
明かりのついた建物の窓からは、子供達の声がもれ聞こえてくる。
女は、しばらく動けずに、ただその場に立ち尽くしていた。
どのくらい経ったか……
女は、思い切って抱えていたものをそっと玄関に置くと、インターフォンを押し、すぐにその場を離れた。
返事の後、遅れて施設の扉が開く。
誰もいないことに若干不審に思いながらも、念のため周りを確認した後、扉を閉めようとしたとき
「先生——! 誰だった?」
無邪気な子供の声が、中から届く。
途端に、赤ちゃんのけたたましい泣き声が、響き渡る。
中にいた子供達が、何人も玄関へ飛び出してきた。
「うわあぁ、赤ちゃんだ!」
「ちっちえぇ!」
「何で赤ちゃんいるの? 先生の子供?」
口々にしゃべる子供達を、中に入るように促すと、赤ちゃんの入った籠から、泣き続けるその子を抱きかかえ、あやしながらも再び周りを見渡す。
薄暗い通りには、しんと静まり返り、人の気配すらない。
「どうされましたか吹野先生? えっ赤ちゃん?」
「……どうやら捨て子みたい。見てベビィセットが少しと、ほら、この手紙」
「……私、すぐに理事長先生を呼んできます」
吹野はもう一度周りを丹念に見渡してみたが、やはり誰もいない。
諦めて、赤ちゃんと籠を持つと、施設内へと戻った。
女はその様子を、物陰から息を殺して、見つめていた。
胸を締め付けられるような焦燥感に、唇を噛み締めながら、流れる涙を止めることなく、声を押し殺して泣いた。
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