第六話 『東京ワルプルギスと螺旋の改造獣』 その58
「ちょっとでも、責任とか感じないの?」
「ないから」
「関わってしまったでしょ?」
「それだけで、何を期待するんだ。姉みたいに、運動神経がいいわけじゃない。オレは、熊と殺し合いしたって、勝てない。女子供を殺す手伝いだって、やれるわけねえだろ」
「だから! 殺さないで済むように、協力しなさい」
「…………ずるい」
「知っている。でも、こっちもお手上げなの。こ、子供たちを、殺すなんて……あの子たちは、が、ガスマスクもつけている。放射能対策だけじゃなく、昏倒させるためのガスも効かない……本当に、時間が、あと10時間しかないのなら。やるしか、なくなる」
「……そんな光景、見たくねえ」
「でしょうね。そうだと思った。あなたは、子供を保護したこともある」
「うるせえ。誰も救ってやらないからだ。お前ら、何のために、警官やってる」
「世の中に、尽くすためよ。さあ、協力して。問題解決のためになら、何でもする。『アナスタシア』を、現場にだって、運ぶ。死ぬかもしれない。脳から弾丸を取り出したばかりで動かすなんて、非人道的でしょうね。医師も激怒した。でも、黙らせた。ねえ。その状況を、あなたは避けたかったんでしょ。だから、こうして、無力なくせに見張っていた。どれだけ殴られても、離れなかった」
「……お見通し、みたいな顔するな」
「していない。でも、きっと、あなたはやさしい。妹を、見捨てられない。私たちが殺さなくちゃならない子供たちも、見捨てられない。どうするの? あなたの、お姉さんは」
「行くって、言ったんだろ。あいつ、アタマのネジが、何個か抜けちまったんだ。ヤツのせいで。麻生繭のせいで……」
「核テロだけは、防ぎたい。子供たちを、殺さずにすむ方法で……どうにか、しなさい。私にだって、いい方法があるのかは、わからないけれど。まだ、時間がある。試みる時間がある。地獄に挑むの」
「……何も、やれなかったら。『アナスタシア』が死んで、周りのガキどもをあんたらが殺しまくっている状況を、見ているだけじゃねえか。そんな目に、遭えってか。そんな目に遭わせる権利が、あんたにあると思うのか?」
「ない、でしょうね。だから、お願いしているの。協力してもらえないときは、薬で眠らせて連行するだけ。人質には使えるかもしれないから」
「……あんた、自衛隊の、人?」
「誰でもいいでしょ。それで、どうするの? 地獄に行く方法を、選びなさい」
「知ってるだろ。オレは、やさしいんだ。ただし」
「ただし?」
「条件がある。子供たちの、罪が……可能な限り、軽くなるように。みんな、被害者だ。それが、条件だ」
「わかった。ご協力に、感謝する」
「よせよ、敬礼なんて。そんなもので、敬意を示しているつもりになるな。クソみたいな自己満足を捨てろ。お前らは、職務放棄している最中だ。善意につけ込み、市民を利用する。クズだ。お前らみたいな連中は、排除しなくちゃならねえ。クソが……協力してやるよ。だから……だから、これが終わったら、さっきのクズといっしょに、この仕事をやめろ。お前らは、もうまともな公務員じゃねえ。お前らが守りたかった秩序のためにこそ、公的な組織にいちゃいけない」
「辞めるわ。やりたくないのに、やるしかないだけなのは、こっちも同じ。どうせ、社会的に死ぬの。子供たちは、実際に死ぬかもだけど。ろくでもない地獄を、回避するために……よりマシな地獄を、目指そう」
必死な願い。
切実な悲鳴じみた願い。
誰かのそれを、少しは減らしたいから。
地獄に行く。
生まれたときからいっしょの、双子の姉と。
さあ。ドアが開いた。
やけに落ち着いた顔をしている姉がいる。
武装した物々しい連中にベッドごと運び出されていくかわいそうな妹がいる。
妹と姉とともに。
世界が終わる日を過ごそうか。
きっと、世界は取り返しのつかないものを失っちまう。
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