第六話 『東京ワルプルギスと螺旋の改造獣』 その57


―――同時刻、同病院。


「そのテロリストのそばから、離れたくないか。手術は成功したんだ。まあ、脳死状態らしいがね」


 吉永ちゃんにクズ呼ばわりされているのは、こいつだろうか。どうでもいけど、吉永ちゃんが、よく出来た公安だってことがわかったよ。こいつの陰湿さと陰険さときたら。東大生にちがいない。


「君と彼女は、同じ遺伝子から作られた。君は、クローンではなく……誰かと『聖女』の子らしいがね。『ドクター・バタフライ』の子か」


「知らねえよ」


「殴られ足りないか」


「出た学部が、賢いとこじゃなかったのかなあ。暴力振るうなよ、野蛮なクズ。法律ってものを勉強し直してこい。足りたねえぞ、理解が。ああ、それと。教育ママから受けられなかった、一般常識もな」


 ああ。殴られた。なんで、最近、殴られてばかりなんだよ。美女と美少女のびんたしか、対応していないのに。


「お前の両親。いや、托卵されていたニセモノの両親か? それとも、別の関係性なのか。行方不明だぞ。逃げたのか。あいつらも、『生命の秩序』なのか―――」


「調べるのは、君たち公務員の仕事でしょ。自分の出自も知らなかった一市民に、聞くんじゃねえよ。バカなのか?」


 殴られた。眼鏡野郎め。勉強しなくても医学部に入れたオレに嫉妬してるのか? 必死こいて目が悪くなるまで勉強しないと、いい大学にすら入れないアホだから。そう罵ってやりたいのに。お口の中、切れて痛い。


「立場を、わきまえろ!」


「……なんで?」


 殴られる。


「お前は、テロリストなんだ!」


「証拠ないだろ。だって、テロリストじゃないもん。被害者なだけ」


「うるさい! 証拠なんて、これだけ大事件になったら、必要ないんだよ!」


「はあ。ほんと……ろくでもねえや。こんだけボコボコに殴られたら、嘘でもクソでも言っちゃうよ。ねえ、エリートくん。どういうセリフがお好みかね? 台本を持ってきてくれよ」


 蹴られた。ひどい。真帆ちゃん。真帆ちゃん……ああ、君も、あの子も、こんな目に遭ったのか。ごめん。マジで、ごめんね。タイムマシンも作れない、バカでごめん。痛かったろうに。


「お前も! お前の周りにいる連中も! 全員、死ぬまで刑務所行きにしてやるぞ! 国家権力、なめんなよ! 貴様ら一般人の人生ぐらい、どれだけでも破壊してやれるんだ!」


「……はいはい。ねえねえ。オレが暴力に屈しないタイプの純正文学青年だってコト、理解したでしょ。尋問用の『飴と鞭』で、鞭のバカは不要なんだよ。とっとと飴寄越せ。激甘の飴を出すターンだ。この無能じゃ、話にならねえ」


 殴られた。


 でも、病室のドアが開いたよ。飴こと、女の公安が登場だ。警視庁かも。どっちでもいい。人工呼吸つけられた『アナスタシア』のすぐそばで、眼鏡たちが交代した。女の眼鏡の方がいい。こいつは目が怖いから、守備範囲外だけど。


「飴らしく、やさしく振る舞えよ」


「憎らしいクズね」


「よく言われる。女性からね。こう見えて、ボコボコにされる前はイケメンなんだ。イケメン保護法違反でさ、さっきの眼鏡野郎に懲役45000年をくれてやってよ。暗黒の遠未来まで、冷凍保存しちまう刑に、すべての美少女裁判員たちは賛成するだろう!」


「殴りたくなる」


「……で。本題は? 核、見つけたの?」


「捜索中」


「……つまり、トラブルがあった」


「また、たくさん殺された」


「じゃあ、もっと死にながら兵力を送り込めばいいじゃん」


「……殺しにくい、敵がいるのよ。敵と、言いたくないけれど。敵が」


「…………市民でも、『生命の秩序』の一般信者でも、ないってか。だったら、殺すもんな。容赦なく。ああ、ああ……な……る、ほど……」


 ろくでもねえ。ほんと、ろくでもねえぞ。


「あなたの教えてくれた場所を守っているのは、女性と……」


「子供かよ。女子供が、守っている……君ら、まさか。女子供を、皆殺しにしたの?」


「まさか。それだけは、やれていない。まだ、今のところ」


「……ゾッとさせるなよ。日本って、そんな覚悟、ない国だろ?」


「さあね。あるかも。私たちだって、もう冷静じゃない。『アナスタシア』と同じく、あの子たちにも、自衛隊員が食われた。子供たちに、噛みちぎられながら、バラバラに解体されて」


「その動画も……」


「全世界に公開されて、拡散されている」


「……じゃあ。もうすぐ、ネット封鎖するんだね」


「なるでしょうね。これ以上は、もう日本が耐えられないから」


「そうかい。じゃあ、がんばってくれよ。そのために、君たちお金もらっているんだから。オレは、妹の無事でも祈っておく。一般市民には、非行に走った『聖女』の生まれ変わりを祈るだけしかやれない。地獄で、がんばれよ。オマワリさんども」


「飴役でも、ガマンの限界ってあるの」


 蹴られた。ひどい。ひどい。金玉が……まだ、真帆ちゃんに受胎させてあげていないのに。うええ……って、なってる。かわいそうな、隆希くん……っ。



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