第五話 『現実臨界』 その7/アトリエに秘密は眠る


「んで。ここが、暗黒彫り師の秘密のアトリエか」


「そう。危険があるかもしれないから、自分の身は自分で守るように」


「警官の言っていいセリフかよ」


「うるさい。公安は、いそがしいんだ。とっとと、ついてこい」


 ……山奥のログハウス。昔、私たちが小学生のときにいったキャンプ場のちかく。そんな場所に、繭の師匠の別荘はあった。中年の警官が、ログハウスのドアに近づいていく。こいつもあの横暴な貧乳に支配されているのか……?


「黒沢とは別人名義で、借りられていた。あの女が保護していたというか、利用していた子の名前で。麻薬があるかもしれん……」


 繭にタトゥーの彫り方とか、麻薬とか……たぶん、売春とかも教えた師匠。こいつが諸悪の根源だろうか。いや、それ以前から……ちくしょう。やっぱり、ほしいよ、タイムマシン。のび太ばかり救ってもらえるのは、ずるい。


「麻薬より、もっとエグイものがあればいいのにって、祈りながら侵入するのが本当に嫌だよ」


「お。坊主。クズ無職のくせに、正義の活動にやる気出してるじゃないか」


「うるせえよ、中年。そもそも誰だ、お前」


「す、菅原さんだよ」


 聞いたことがある。ああ、拳銃の発砲を偽装した警官か……「仲間想いらしいね。助けられなかったけど!」。うん、悲しいことだ。


「菅原ね。なんか、オレのこと調べてるカンジ?」


「ロリコン野郎だったら、前歯でも折ろうと思っていたんだが」


「誰がロリコンだ。オレさまは正義の味方だぞ」


「お前、家出した女子小学生を連れて行ったんだって?」


 姉として、制裁しなくてはならないことが起きていたのか……。


「拳を鳴らすな、姉。誤解してる!」


「そうだぜ、タトゥーの姉さん。こいつはその子を保護したようだ。田中とかいう男と、児相に連れてきた」


「たまには善行ぐらいやってるよ。ボロボロで泥だらけ、痩せ細ったクソガキを繁華街の路地裏で見つけたから、田中家に連れていっただけ」


「だから、他の罪は見逃してやる」


「オレは無実かつ無罪だ。でも、調べるなよ!」


「へいへい。さて……開けるか」


「ど、ドリルですか、菅原さん……っ」


「クソ頑丈なカギだ。でも、こいつなら一発。講習会で見ただろ?」


「あ、空き巣の手口ですよね」


「そうだ。使えるものは、何でも使う。こっちは、負け戦してるようなもんだ!」


 何でもやる男は、ドリルでドアのカギをぶっ壊してしまった。


「さて、入るぞ―――」


「その前に、ちょっと……確認」


 貧乳スパイが何かしている。ポケットのなかでこそこそと。ドラえもんみたいに秘密のポケットを持っているのかな。タイムマシンがあれば、今すぐ出してほしい。


「……よし、まずは安心」


「不安になるんだけど、吉永ちゃん。公安ポケットのなかに、何あるの?」


「秘密の道具。とりあえず大丈夫だから、入れ。お前が先頭だ」


「いやだ。死ぬかもしれないから、年上から行こうよ。菅原がいい」


「さんをつけろ、無礼なガキだぜ……だが、無難だ。勅使河原は負傷しているしな」


「す、すみません」


「いいんだ。オレと違って、お前は家族が家にいる。命は大切にしろ」


 いい人そうだけど、どこかヤケクソさを感じた。頼りになると同時に、さみしそうな背中が、黒沢とやらの隠れ家に入った。電気をつけてくれる。手慣れている。勅使河原よりはるかに警官としての経験があるってことだろうか。


「意外と普通だし、キレイに整頓されている……だが、そいつが逆にあやしいな」


「シロウトのくせに、捜査官ゴッコしてんのかよ?」


「うるせえ、菅原。お前らが役に立たんから、市民がこんな地獄にいるんだ」


「くそ。ホントのこと言うんじゃねえよ!」


「とにかく。探せ、男根ども」


「男根生えてない姉が、たぶん探し当てられる」


「え?」


「男根などない方が有能だから?」


「男根を連呼するなよ、可愛い顔してるんだから」


「口説かれた」


「そうそう。前世からの運命の愛かもしれないから、オレを嫌うな。オレを甘やかそう。真帆ちゃんいるけれど、一晩だけなら勅使河原してやってもいいし」


「う、浮気の隠語として、オレの苗字を使うんじゃない」


「で、どういう意味なの?」


「ヤツの師匠だぞ。ヤツが、ろくでもないものを、どこにどう隠すのか。参考にする」


「……そっか。『繭と隠し方』が似ているかもってこと」


「その通り。ヤツは、人のせいにしたがる。危険な物の隠し方も、真似ているはずだ」


「……やってみる」



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