第五話 『現実臨界』 その4/我が主たる歯車よ
―――同時刻、高速道路。
「え、えーと。『グランマ』が、洗脳装置……って、本気じゃないよな?」
「違うといいね」
「そ、その言い方をされると、不安になるじゃないか。オレだって、使っているんだぞ」
資産運用にも使われているから、私もそうだ。ほんと、『グランマ』はかなり有能。現代社会は情報化した、というよりも、情報の支配下に入ったという方がいいのかも。道具だったはずのそいつらが、いつのまにか主導権を取り始めているように感じるのは気のせいじゃない……。
「不安になるのは、正しいよ。だって、死ぬほど大変なことだから」
「だ、だが。洗脳なんて、やれるのか……?」
「現に君だって操縦されているだろ、勅使河原くん。オレとか、貧乳公安とか、奥さんとか、あと浮気相手に」
「せ、洗脳とは、違うじゃないか」
「ルール/規範を作れば、いいんだよ。『正しいコト』を、あたえればいい。善性の理論武装とでも言えばいいかな。君がオレたちに協力してくれるのも、『正しいコト』だと信じているからだし、貧乳公安に情報をながしているのも同じ。『悪いコト』に洗脳されるんじゃない。『正しいコト』に洗脳されちまう」
「『グランマ』で、やれるの? ただのプログラムなのに?」
「姉よ。洗脳ってのは、主従関係であり、それ以上に『協力プレイ』なんだ。催眠術もそうだが、あれは被害者が自ら洗脳されようとするとき、最大の効果が出ちまう。つまり、まあ。恋愛といっしょだな。お前もヤツにあやつられている」
「繭は、そんなことしていない」
「そう。お前から支配されたがっているから、あやつられている。自覚もなしにね」
……きっと。眉間にしわが寄っているな、今の私は。
「支配っていう関係性や、洗脳、催眠術、恋愛も。とにかく、利己的なはずでいい動物が、利他的になってしまうほど、おかしな関係性を構築するには、お互いの協力が何より必要なんだよ。オレの予想する『グランマ』の『仕掛け』は、人間側とAIの掛け合いで機能する」
「い、意味がわからん」
「『グランマ』だけじゃなくてね、人間側の心理こそが重要なんだよ。『グランマ』を信頼している。有能な機械だし、実績も多いからね。資産運用まで委ねちまうと、大切にしちまうよ。人はどれだけリスクを抱えたかで、愛や忠誠や執着心を醸成するんだから。大切になると、欠点を自動的に見過ごそうとするのも人間の悪癖。そして、何より……『グランマ』が提供してくれる情報は、かなり正しいし魅力的だ。そこらの他人の言葉よりもね。だから、『グランマ』の提供してくれる情報を、人間は『鵜呑み』にしていく」
「信じるって、ことね」
「時には盲目的に。どこかの誰かの恋みたいだ」
「うるさい」
「こうして『グランマ』は権威を勝ち取った。人に教えをあたえてくれる、おおむね正しい立場……『教師』であり、『指導者』、『催眠術をかけてくれる先生』であり、人によれば『かしこい友人』……最も、不安な呼び方をすれば……『教祖』」
聞きたくない言葉を、使うのが得意なのがクズ弟だ。だから、きっと、小説家になれない。もっと耳心地のいい言葉を使うべきだろう。「物語ってのは、『死んだ言葉』の博物館だからねえ。死んでるから、安心して見物できちゃうの。噛みついてこないから。怖がらせちゃダメ。『へる・へる・へぶん』になっちゃうよ」。
「『教祖』からの言葉には、誰もが耳を貸す。オレのスマホにも「おっす、オラ悟空。クリリンのやつから聞いたんだけど、電話番号変えたって? よければ連絡してくれよ!」という詐欺メールが届いたときは、ついつい連絡したくなった。ドラゴンボールは最高だ」
「……つ、つまり。好きなものには、弱い?」
「好きな権威にもね。『グランマ』は、そうなってる。大好きな『グランマ』からの情報は、信じたくなるし、楽しいんだよ。それを信じて、投資したりするだろ?」
「ま、まあな。普通に結果出るし」
「そんな『教祖』が、教えてくれるんだよ。我々が体験させられた一連の事件を見せつけながら、ちょっとずつ、『犯人』からの『指令』をあたえていく……催眠術と信仰はね、協力プレイなんだ。神さまの教えなんてものはすべて『嘘』なんだが、それを信じたフリをしているからこそ幸せを得られるし、ありえない行動もやれちゃう。恋も同じ。支配されてると安心しているから、奴隷の演技をして、相手に媚びる。『嘘』を信じた演技をしながら、いっしょに恋愛という体験をつむぎあげていくんだよ」
クズ弟は、嫌な奴だと思う。賢いのかもしれないけれど、世の中の見え方が、ゆがんでいるというか……まあ、いい。肝心なのは。
「『グランマ』を使って、『犯人』があたえた『命令』って何?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます