第2話 変わりゆく風景
卒業、入学、引っ越し、転職——人生は、そのたびに少しずつ、時には突然、大きく変わっていく。
中学を卒業し、高校へ進学。地元の商店街を抜け、自転車で駆け抜けながらの通学。放課後には野球をやって仲間と騒ぐ。そんな平凡な日々が続いていくものだと思っていた。
中学時代、僕は野球に夢中だった。そして高校に入っても、当たり前のように野球部に入部した。土と汗の匂い、ユニフォームをまとい、仲間と共にグラウンドを走り抜ける感覚——それこそが僕にとっての青春だった。
しかし、その「当たり前」は、たった2か月で崩れ去った。
理由は特になかった。ただ、グラウンドに立つ自分が、いつの間にかどこか違和感を抱いていることに気づいたのだ。
その一方で、クラスメイトたちは各自のスタイルで日々を楽しんでいた。バイト、スケートボード、サーフィン——自由な彼らの姿は、まるで違う世界の住人のようだった。放課後に海辺でサーフボードを抱え、風を切るスケートボードに乗る仲間たちの笑顔。彼らが放つ自由な空気に、僕の心はいつしか惹かれていった。
—僕は部活を辞めた。
気づくと、野球という軸を失った僕の心は、開放感を求めてさまよっていた。部活を辞めたことを周りはさりげなく問いかけてきたが、誰も深くは追及しなかった。
中学の友達には大きなニュースになっていた。何人からも連絡があった。その時の僕はそれが少し煩わしかった。その時は「たく、うるせーな。俺の勝手じゃん」くらいにしか思わなかった。
だが、僕も部活を辞めてから自由に振る舞う友達の真似をするたびに、自分の中でもある疑問が膨らんでいった。
——本当にこれが「自分らしい生き方」なのだろうか。
その問いが、僕の心にしこりのように残り続けることになるとは、この時はまだ気づいていなかった。
◇
野球を辞めると、クラスの友達と遊ぶことが増え、放課後は部室ではなく、横浜駅に行くようになった。短かった髪も長くなっていた。
僕ががとくにクラスで仲良くなったのがクリとジュンだった。
栗原和也ことクリは中学時代は野球をやっていた。しかも軟式野球ではなく硬式野球をクラブチームに入ってやっていた。
あの有名メジャーリーガーを輩出した高校からもスカウトが来たらしい。でも練習中に肩をこわして野球は辞めた。
そこからハマったのがクリのお兄さんがやっていたサーフィンだった。今では週末になると湘南の海に毎週サーフィンしにいっている。僕とクリは野球をやっていた事もあってすぐに仲良くなった。
三嶋淳弥ことジュンはハードロックバンドでギターをやっていてスケートボードもやっていた。ジュンは特に90年代から2000年代のパンクロックが好きらしくピアスも開けていた。高校卒業したら肩にタトゥー入れるんだと常に言っている。
2人とも見た目は少し派手だけど根はいいやつらだった。2人と仲良くなって2人が学校終わってすぐに遊びに行く事とかが羨ましく、生活が窮屈に感じたのも野球を辞めるきっかけになった。
部活を辞めてから実はバイトも始めた。月4万円を手にすると欲しいものは何でも自分で買うことができた。バイト先の大学生の話も新鮮だった。
高校に入学してからは見るもの感じるもの全てが新鮮だった。横浜という街もそこで歩いている人達も。自分の可能性が一気に広がった気がした。都会の住人という気分でいた。
部活を辞めてからそんな生活を続けていたある日、地元の駅で中学で同じ野球部だったカヅキに会った。僕はクリと一緒にいて、少し冗舌になっていた。
「あれカヅキじゃん。元気?野球やってんの?」
「一応ね。でも、なかなか高校の環境に慣れなくてさ、中学に戻りたいよ。あの頃は楽しかったよな」
「カヅキ、実は俺はもう野球辞めたんだ。でも辞めてから毎日結構楽しんでるよ。」
「えっ野球辞めちゃったの?なんでだよ。」
「いや、なんか野球より楽しい事見つけたっていうか。深い理由はないんだ。じゃあ行くわ。またみんなで飯でも行こうぜ!じゃあなまたな。」
カヅキは何か言いたそうだったが、僕は気にせず、すぐにその場を去った。
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