刑務所脱獄

十八万十

第1話

あたりは薄暗く、空気が重く澱んでいた。


「なぁ美香、なんでこんなもの受け取ったんだ?」

「ごめん…裕也…友達が親の手術台のために買ってくれ…って。」


裕也はため息をつく。


「中身は教えてもらえなかったのか?」

「聞いたんだけど…うやむやにされて、そのまま…。」


紙袋の中に入っていた透明な小袋の中身は『白い粉』だった。


「処分はどうする?」

「明日警察に持ってく。」

「わかった。夜も遅いし、もう寝るか。」


5年前、中学生の時に私が彼に告白し、彼とは2年間同棲している。

現在高校生の私たちにとって家賃を払うのすら大変だったが、

学校で仲のいい友達にいきなり「買ってほしい」とお願いされ、

疑いもせずに買ってしまった。


中身は麻薬。友人がどのようにしてこれを手にしたかわからないが、

その人には更生してもらいたい。

私は明日の朝起きてすぐに交番に届けにいくつもりだった。


しかし、私の決意は虚しく終わる。



次の日…。



「あ、こんにちは。」


家には知らない男性が2人やってきた。

インターホンを押され、玄関に出てみると、警察手帳を構えた人がいた。


「は…嵌められた…。あんなに仲良かったのに。」

「麻薬及び向精神薬取締法により、4月8日07時23分。2名を現行犯逮捕。」


私と裕也が抵抗をするも、手錠の閉まる音がして、動けなくなってしまう。


「ちっ、ちが!これは私の…

「はーい、話は警察署で聞くよー。」


私たちの心は絶望に囚われた。


——警察署にて——


「だから、俺らは違うって言ってるじゃん!」

「じゃあなんでコレがあるんだよ!!!」

「友達に売られたんだってば!」

「中身を教えられずに買うバカがいるかってんだ!!!」


裕也が私のために必死に講義を続けるも…


「俺が…買ってきました。」

「えっ、裕也?」

「やはりそうなのか。入手経緯は?」

「…教えねーよ。」


裕也が折れてしまった。


「教えろよ。」

「…」

「チッ、黙秘権か……。そこのあんたもなんか知らんのか?」

「私は…何も。」

「へっ、そうか。」


私たちは面談室の外へ案内される。


数日後、三人に下された判決は重かった。

麻薬の密輸に関わった容疑でそれぞれ10年以上の刑期を言い渡される。

が、追加して次から次へと見つかる偽の罪によって死刑を言い渡されてしまう。

私たちは特殊な囚人だけが送られるという「スズラン刑務所」への移送が決まった。


囚人輸送用のバスの中で、私たちは無言のまま座っていた。

他にも数人の囚人が同じバスに乗っているが、誰も口を開かない。

窓の外には荒野が広がり、遠くに刑務所と思しき巨大な建物が見えてくる。


「ここが俺たちの新しい“家”かよ……」


裕也が乾いた笑いを浮かべるが、淳は眉をひそめるだけだった。

美香は目を細め、その建物をじっと見つめる。


「私、ここから出てみせる。」


どうやら、脱獄したのちに無罪判決が下されれば、脱獄の罪も無くなるらしい。

私は、その思いを胸に、脱獄への決心をしたのだった。



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