魔法戦士ピアレス

桜国

第1話

「呼ばれたから来た。この私をいきなり呼び出して、何の用事?」儚は数年ぶりに姉・夢の家を訪れる。


「えっ。その足何…。なんでそんな大怪我したの?」久しぶりに合った夢は足を骨折したのか、包帯に包まれており、かなり痛々しいものだった。


「なぜこんな怪我をしたかって?ここでは大きな声で言えない。」


「何?これ…?」部屋に入ると、奇妙な杖が立てかけられていた。


「ねえ、これってコスプレの小道具?へぇ、夢にそんな趣味あったんだ。」儚がニヤニヤしながら冗談半分で尋ねると、夢は真剣な表情で答えた。


「…いいから座って。話があるから。」儚はその大きな声に驚いて机に座る。


「遡ると…高校生の頃だ。目の前で親友が崩落事故に巻き込まれたことがあった。でも、助けられなかった…。友人の命を目の前に、私は逃げることしかできなかったんだ。その後少しして、魔法戦士ピアレスという、花咲家にしか継承できない特別な能力を家族から教わった。なるべくなら、苦い過去は忘れて普通の生活を送りたかった。私は…、桜国さくらこくでは唯一の魔法戦士になったが、私も魔法戦士になりたくてなった訳ではなかった。でも、それだけじゃない。儚、君には…きっと、私以上の力が眠っていると思うんだ。」杖を手に取りながら話し始めた夢。


「ぷっ!あっはっはっは!ピアレスって何?なんの冗談?え、このタイミングで?」儚は呆気に取られたように笑った。


「その後、この世界の災害やテロ、戦争、革命といった歴史上の悲劇、全部…魔力が原因だということを知った。魔力は普通の人には見えない脅威で、欲望や憎しみ、支配といった負の感情の連鎖と増発によって引き起こされているんだ。私は魔法戦士として10年、無数の魔力を封じてきたけど…とうとう体が限界を迎えて戦えなくなってしまった。」


「いやいや、そんな訳ないでしょ!そんなのあんたの妄想でしょ。誰も信じる訳ないよ。戦争なんて人間が原因に決まってるじゃん。悪いけど、そもそも正義のため?とかに動くファンタジー漫画に私は興味がないから、帰るね。」儚はしばらくして立ち上がり、冷たい表情で呆れたように肩をすくめた。夢の言葉を全く信用していない。


「儚がそう言うってことは分かっていた。魔力を倒せば、報酬をもらえるよ…。」その瞬間、夢の報酬の言葉に、儚の体が止まった。


「ふーん。どれくらい?」振り返った儚の瞳は、冷笑的な興味が宿っていた。


夢は一枚の契約書を儚に差し出した。


「政府は、魔法戦士に対して災害や異常現象の解決ごとに高額の報酬を支払う制度を特別に設けている。この国の政府がこの制度を公表しないのは、魔力の存在を知られたくないから。でも、その分、報酬は高額だ。」こうして、大量の現金の入ったキャリアケースと誓約書を見せる。


「一件の災害または異常現象の解決につき最低一千万。ただし、状況により増額あり。支払い:現金手渡し(電子記録なし)。」


「はぁ?…一千万!?マジで」儚は内容を一読し、眉をひそめた。


「でも現金払い…?今時、あり得ないんですけど。」しかし、銀色のキャリアケースが開かれると、中にはぎっしりと詰まった札束が並んでいた。数える必要もなく、これが一千万だと一目でわかる。紙幣の匂いがほんのりと漂ってきた。


「今日からでも最初の依頼を受けてもらいたい。信じるのは、実際に報酬を手に入れてからでいい。」


儚は暫く考え込んだ後、ふっと笑った。

「…これが一度の仕事で手に入るお金…?これなら、もう一生と働かなくても済むかも。夢、君ってやっぱり面白いね。少し考えてみるよ。ただし、お金がもらえなかった時はどうなるかわかってるよね?」儚は続ける。


「とりあえず、このステッキは持っていって。何かあったらまた連絡して。」夢は真面目な姿勢を貫いた。


家に帰り、ステッキを机に置いて一息つく。



机にステッキを置いた瞬間、一筋の光が暗い部屋を照らし始める。儚な思わずステッキを手に取った。


「本当に変な杖だ…」その瞬間、記憶が呼び起こされるように、花咲家の家族が代々魔法戦士として戦ってきた姿がフラッシュバックしてきた。儚は杖に秘められた力が単なる偶然でないことを直接的に感じ取った。


「…これが花咲家の秘密か。なんだか面白くなってきたね。」こうして、花咲儚の物語が幕を開けたのだった。


続く――

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魔法戦士ピアレス 桜国 @sakurakoku

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