転生魔法少女ルナ参上
すぎやまかおる
第1話
第一章 魔法少女
あたしは冬月奈々十七歳。職業は魔法少女ルナ。
今日は週一のドラマ撮影である。ドラマって言ってもローカルテレビ局の日曜日午後にやっている十五分の短編ドラマなんだけどね。
「ルナちゃん、おはよう。今日もかわいいね。これ台本だけどいつも通り自由にやっていいから」
デレクターの笹口さん。お昼過ぎなのにおはようなんだろ。あたしはもう早番の仕事こなしてきてるんですけど。あと、それから。予算少ないのはわかるけど放送作家ぐらいつけろよ。毎回あたしのアドリブ頼りじゃねえか。
そんなこと考えていると、収録が始まる。
そ、リハなどないのだ。
スタッフはというと笹口さんと運転手兼ADの佐々木君。ローカルテレビ番組のロケってこんなもんなんですかね。え、衣装はって。衣装は政府から支給されている魔法少女のコスチューム。みんなの夢を壊すこと言うけど、魔法少女の変身って単に魔法少女のコスチュームに裏で着替えてくるだけだからね。でも、落ちこぼれ魔法少女のあたしにはこんな時でもなければ魔法少女のコスチュームでさえ着ることができない。悔しいけど。
さて、演技始めるか。
どうでもいいが、このドラマのタイトルは『転生というキーワードを入れないとアクセスが伸びないという理由で転生をタイトルに入れてみたが実は転生ではないことがバレないかとビクビクしている魔法少女の物語』なんだって。ふざけすぎ。ま、落ちこぼれ魔法少女のあたしにはピッタリかも。
今日は応援のお便りから紹介するわね!!
東京都在住の女性からです!!
なんで語尾が『!!』ばっかりなんでしょうか!!
バカなんですか!!
うっせえわ!!
あたしに言うな!!
あたしに!!
気を取り直して、ワルモノさん探さなきゃ!!
「ワルモノさん発見!! プチサンダー!!」
あ、手元が!!
となりの女の子に命中!!
女の子のアタマがアフロに!!
ま、いいや!!
〇に代わっておしおきよ!!
「ハイ、カット!! お疲れさんです」
デレクターさんのOKの声。
てか、まったく台本無視したアドリブだったんですけど。
「お疲れ様でした。今日もいい仕事でしたよ。ルナちゃん」
デレクターさんが労ってくれる。
ADさんが冷たい飲み物とよく冷えたタオルを渡してくれた。
これでいいのよね。
あたしはこの収録を撮るたびに葛藤にさいなまれる。魔法学校を卒業して一年、あたしは週一の短編ドラマの主役を演じている。週一であるが仕事があるだけマシなのだが、魔法学校で落ちこぼれていった自分と魔法少女として華やかに活躍している同級生たちとを比べてしまっているのである。
第二章 ファーストコンタクト
俺の名前は東 京太郎、四十六歳。大東京を愛し、大東京に愛される イ ケ オ ジ である。フッ、今日も女どもの視線が熱いぜ。
大東京を颯爽と歩いていく俺の前にうつろな目をした少女を発見。
おっと、俺の魅力にメロメロなのか。
「君、どうしたの? 顔色悪いみたいだけど」
「なに、キモ」
うつろな目をした少女は去っていった。
【ルナ視点】
今日は最悪な日だったわ。バイト先にいったら店長に
「あれ、ルナちゃん。今日はシフト入っていなかったよね。よく確認してね」
と言われシフト表を確認すると、明らかにあたしの筆跡じゃない修正が入っていて今日は非番になっていた。
今日、どうしよう。まかないもないってことだから、食べるものもない。
とりあえず、公園の水道でおなか一杯になるまで水を飲んだ。
家に帰る途中、知らないおっさんに声をかけられた。
「君、どうしたの? 顔色悪いみたいだけど」
って、あたしは怖くなって足早に逃げていった。
第三章 詐称
あたしは捨て子だったらしい。政府関係者がそう言ってた。
この国ではそういう子を教育して魔法少女にするシステムがあった。幸運なことに、あたしにもわずかながら魔力があったので魔法学校に十年かけて卒業した。卒業するまでに同級生は次々とスカウトされ魔法少女になっていく中、同学年で卒業したのはあたし一人だけだった。魔法学校を卒業するってことは魔法少女として落ちこぼれの烙印を押されたのも同然らしい。
今は週六で三件のバイトをこなして例の週一の番組に出演しているのである。住むところは政府が紹介してくれたシェアハウス、食費や光熱費を払ったらバイト代なんて簡単に飛んでいく。この生活を抜け出すためには魔法少女として名を売って魔法少女を職業にしなくちゃね。でも、魔法学校で覚えたのは簡単な飛行魔法、プチサンダー、プチファイアだけ。
どうにもならなくて、オーディションの履歴書に『転生』の文字を加えた。それで合格してしまったが、いつバレてしまうかとビクビクしながら週一の収録に臨んでいる。
詐称に後悔はしていない。
生きていくためだから。
第四章 セカンドコンタクト
俺の名前は東 京太郎、四十六歳。
大東京を愛し、大東京に愛される イ ケ オ ジ である。
フッ、今日も女どもの視線が熱いぜ。
大東京を颯爽とスタイリッシュに歩く俺。惚れ惚れするぜ。ふと、周りを見渡すと女の子が宙に浮いている。
ああ、テレビ番組のロケか。
大東京だとこんなものは珍しくないんだよ。だけど、ワイヤーがまったく見えないけど、最近のってこんな感じなの?
そう思っていると、女の子の手のひらから火の玉が飛び出した。
すごいな。
最近のってこんな感じなの?
『ま、いいや!! 〇に代わっておしおきよ!!』
女の子がそう言った。
え、今。〇って言わなかった。
〇ってなに?
最近のってこんな感じなの?
【ルナ視点】
ヤダな。
変なオッサンが下から覗いてるよ。
ADさん、そのオッサンどかしてよ。
衣装だけど、下から覗かれるの嫌なんですけど。
「ま、いいや!! ○に代わっておしおきよ!!」
えー、ヤダ。
あのオッサン、さっきよりもあたしのこと凝視してるんですけど。
キモ。
おまわりさーん。
変質者を捕まえてくださーい。
第五章 同級生
よくこの番組で『!!』の話題が出るけど、あたしはこの話題は嫌なんだ。だって、『!!』ってビックリビックリ、ビクビクなんだって、『転生』詐称をしてビクビクしているあたしにとっては嫌なだじゃれだよ。
今日、デレクターさんからこの番組の打ち切りを聞かされた。
あと、二回。その後どうしよう。バイトもう一件追加するか。
シェアハウスの共有スペースでカップめんをすする。カップめんも三等分にして三回に分けて食べてる。
まかないのあるバイト増やそうかな。
そんなことを考えていると、つけっぱなしになっているテレビで見覚えのある顔が映っていた。
同級生だ。
っていっても、あの娘は一年でスカウトされていった天才魔法少女。
あたしなんかじゃ地球が百回爆発しても勝ち目がない。
あの娘のバトルネームはあんなのなんだ。
かっこいい。
あ、バトルネームっていうのは魔法少女が仕事で使う名前。あたしの本名も『ルナ』ではない。ま、あの娘の本名なんて覚えてもいないけど。そのテレビ番組は魔法少女特集をやっているみたい。他にも同級生がたくさん紹介されている。もちろん落ちこぼれのあたしなんて紹介されない。
あの番組も日曜日午後の短編なんで、あたしなんて知っている人はいないだろうな。悲しくなる。
カップめんものびてふやけている。のびるのはアクセスだけにしてほしい。
なんども魔法少女をやめて普通の女の子になろうと思ったことはある。でも、魔法少女をやめると政府からの補助金がとまってしまいこんなシェアハウスでも家賃が払えなくなって出ていかなくなるから、嫌でも魔法少女を続けている。やっぱり、あたしみたいな落ちこぼれが魔法少女なんて目指したのが間違ったのかな。
一年生の時なにもできないあたしに魔法学校の担任の先生がやめるように何度もアドバイスをくれたのに、それを拒み続けていたんだよね。怖かったんだよ。魔法学校を追い出されるのが。
第六章 サードコンタクト
俺の名前は東 京太郎、四十六歳。大東京を愛し、大東京に愛される イ ケ オ ジ である。フッ、今日も女どもの視線が熱いぜ。
今日はお客さんのところに行く途中、例のテレビ番組のロケをしていた。ちょっと気になっていたのでボーっと眺めていた。すると、俺の超高級なブランド物のバックをひったくっていく男が走り去っていく。
待ってくれ。その中にはこれからお客さんの前でプレゼンする資料がどっさり入ってるんだ。お金ならいくらでも出すからかえしてえ。
俺のバックをひったくりした犯人はもうずっと遠くに見える。
俺はふとあることに気づいた。
ここに魔法少女がいるじゃねえか。こいつに犯人を捕まえてもらえばいいじゃねえか。
俺は直談判しようとして魔法少女のもとに近づこうとするが、番組スタッフが二人がかりで羽交い絞めにして魔法少女に近づけさせない。
「おめえ、魔法少女だろ!! そんなくだらねえことやっていないで、ひったくりの犯人捕まえろ!!」
「そういうのは、警察のやることで魔法少女がやることじゃないんだよ。警察いけ!!」
俺の主張に番組スタッフが正論をほざく。
結局、俺は番組スタッフによって警察に突き出されてしまった。
【ルナ視点】
今日も元気に収録現場でドラマを撮影している。
あと二回頑張らないとね。
そんな中、下のほうで番組スタッフがもめている。
ゲッ、あのキモおっさんだ。やだな、もう。ストーカー、ストーカーなの? かわいいのも罪よね。
そんなことを思っていると、キモおっさんが叫んだ。
「おめえ、魔法少女だろ!! そんなくだらねえことやっていないで、ひったくりの犯人捕まえろ!!」
「そういうのは、警察のやることで魔法少女がやることじゃないんだよ。警察いけ!!」
ADさんが叫んで、キモおっさんをあたしに近づけないようにしている。
やがて、キモおっさんは警察に連行されていった。
くだらないことやっている。分かってるわよ。そんなこと。でも、こんなことぐらいしかできないのよ。犯人を捕まえるなんてことは警察に任せればいいし、同級生たちはそんなことしてないわ。
もっとも、こんなこともしてないけど。
眠れずにそんなことを考えていたら、朝になっていた。
バイトに行ってもキモおっさんの言葉が頭から離れない。
普段やらないようなミスを連発していた。
「ルナちゃん、疲れているみたいだから今日は早上がりでいいよ」
店長は気遣って言ってくれるが、そんなことしたら生活できないよ。
「大丈夫です。頑張ります」
そう答えるのがやっとだった。
第七章 覚醒
いよいよ最後の収録の日がやってきた。まだ、追加のバイト決めていないんだよな。てか、魔法少女の仕事がなくなると、補助金が出なくなってシェアハウスを追い出されるんじゃなかったっけ。
あの時のキモおっさんの言葉にまだ悩んでいる。
このまま魔法少女やめてしまおうかな。
収録もいよいよ佳境に入ってきた時、周囲が騒がしいことに気づいた。消防車のサイレンの音が鳴り響いてる。女の人がデレクターさんのところにきて、何か訴えている。
「あのビルに娘が取り残されているんです。消防署の人たちは火力が強くて近寄れないって言っているんです。サキは三歳の女の子で転生魔法少女ルナちゃんが大好きなんです。どうか助けてください」
あたしの体の中で稲妻のような衝撃がはしる感覚があった。体の中から魔力があふれ出てくるような感覚。すると、喧騒の中から聞こえてくる声。
『たしゅケホけてケホなちゃんケホ』
どこ? どこなの?
そこだ!!
あたしは居ても立っても居られなくなり、デレクターさんの制止を振り切って声のする方に飛んで行った。
心なしかいつもよりスピードが速く俊敏になっているけど。
火事のビルの前まで来て、一呼吸。
魔法学校で習った通りにすればいいんだ。
「ウオーターボール!!」
思いのほか大きな水の塊のためびしょびしょになってしまった。
そして、声のするほうに飛んでいく。
いた。サキちゃん!!
ぐったりしたサキちゃんを抱きかかえて今度は加減を間違えちゃダメよ。
「ヒーリング」
サキちゃんはみるみる元気になっていった。
「てんしぇいまほしょうじょるなちゃん!! どちたの?」
「サキちゃんをお迎えに来たの。さあ、おねいちゃんにしっかりつかまっててね」
「うん」
サキちゃんを抱きかかえて、お母さんのところに戻る。
「ルナちゃん、本当にありがとうございました。ほら、サキもお礼を言わないとね」
「ルナちゃん、ありがとうございました」
これでいいんだよ。あたしにできることだけやっとけば。カッコよくないけどね。
「困ったときはおねいちゃんの名前を呼ぶのよ。いつでも助けに来るから」
「うん。わかった」
いつもの決めポーズをして、堂々と胸を張って大声で言い放っていた。
「転生魔法少女ルナ参上!!」
煤で真っ黒になった顔に、もはや迷いはなかった。
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