第41話 令嬢はくるくる踊ります

 いいのかしら、いいのかしら、これは公爵家ご婦人の誕生日会なのに、ヒロインの座を奪ってしまったみたいになってしまいました。

 ご婦人を見てみたら、涙を浮かべて幸せそうに祝福してくれています。それに、他の皆さんたちも口々に祝福の声をあげてくれています。


「おめでとーーーーっ!」

「二人はくっつくと思ってたわーーーっ!」

「ご結婚おめでとーーーっ!」

「これで両家は安泰だなーーーっ!」

「この泥棒猫がーーーっ!」

「お幸せにねーーーっ!」


 あら、どこかの泥棒猫さんが祝福の声にまぎれて私に暴言を吐いていましたね。どの口が言いますかって感じですが、今は気分が良いので許してあげましょう。


 私は姿勢良く立ち上がりました。これからハリーとダンスを踊らないとですね。

 ハリーに手を引かれて会場の中央へと向かいます。すると、紳士な男性のみなさんが、協力してテーブルを端の方に移動させてくれました。


 公爵家ご婦人が音楽家さんのところへと走ります。音楽家の皆さんたちはとてもニコニコしていて、早く演奏したいとうずうずしているようでした。

 ご婦人が笑顔で指揮者さんに話かけます。


「ついにこのときがきましたね。私、とっても嬉しいわ」

「ええ、20年ぶりくらいでしょうか。我々もこのときをずっと待っていましたよ」

「あの子たちのために、最高のダンスミュージックをお願いできるかしら」

「もちろんです。最高に盛り上がる曲を演奏しましょう」


 会場が盛り上がり過ぎて会話の内容がよく聞こえませんでしたが、公爵家ご婦人と指揮者の方はそんなやりとりをしていたと思います。

 私はハリーを見ました。ハリーも私を見てくれます。お互いの目がしっかりと合いました。


「ねえ、ハリー。なんだか大変なことになってしまいましたね」

「せっかくだしさ、思い切りはっちゃけちゃわない?」

「後で後悔しませんか?」

「きっと素敵な思い出に変わっていくさ」


 そうかもしれません。きっと私たちの結婚式のときに思い出したり、私たちの子供に語るときに思い出したり、10周年の結婚記念日で思い出したり――。ハリーといつか、今日のダンスが素敵な思い出だったね、と語り合える日が来ると幸せだなって思いました。

 私は最高のスマイルをハリーにプレゼントしました。


「では、思い切りはっちゃけちゃいますね」

 ハリーも最高のスマイルをくれます。


「いいね。めちゃくちゃ楽しみだ」

「でもね、ハリー。実は私、こう見えてダンスは得意中の得意なんですよ」

「クルリーナ、実は俺もダンスにはけっこう自信があるんだ」


「でしたら、本気で踊っても大丈夫でしょうか。私についてこられますか?」

「いいよ。受けて立とう」


 少し距離をとって二人で向き合いました。そして私は美しく、ハリーは雄々しくポーズをとります。

 そして、明るいダンスミュージックが奏でられ始めました。あ、素晴らしい選曲ですね。子供でも知っているような有名な曲です。この曲なら老若男女、誰でもが大盛り上がりになること間違いないでしょう。


 私は長いスカートを華麗に揺らしました。ハリーはいきなりけっこうな技量で踊り始めました。

 私、安心しました。ハリーなら私が全力で踊っても、きっと応えてくれるでしょうね。


 お互いに笑顔を見せ合って近づいていきます。そして、お互いの手を取り合い、二人でくるくる踊り始めました。

 とても楽しい時間の始まりです。


 会場の全ての人たちが大きな手拍子で盛り上げてくれています。

 私とハリーは踊りながらあっちへ行き、こっちに行き、そのたびに、たくさんの人たちから祝福の声をかけてもらえました。


 やがて曲調が変わり、私とハリーは少し距離を取りました。ステップの技量が試される時間ですね。さあ、ここからが本領発揮ですよ――。


 私はまるでフラメンコを踊るように華麗なステップを刻みました。美しく、ときにセクシーに派手で見栄えのするダンスを踊ります。

 私のダンスの技量に驚いたのか、会場中が信じられないほどに大きな盛り上がりを見せました。大歓声に大拍手、楽しげな指笛まで聞こえてきました。


 そして、私のダンスに応えるように、ハリーがタップダンスを信じられない技量で披露してくれました。カツカツカツッ、とハリーの靴がリズミカルに音を鳴らします。しかもそれに続けて、ムーンウォークというかなり難しい特別な技まで披露してくれました。


 会場の皆さんの手拍子が鳴り響き、どんどん盛り上がっていきます。

 私とハリーは明るい音楽と手拍子のリズムに乗り、二人で再び手を取り合い、くるくると踊りました。何度も何度もくるくる、くるくると――。


 なんて……、なんて……、なんて楽しい時間なのでしょうか。

 この時間が永遠に続いてほしい。私は心からそう思いました。


 ちなみに後で聞く話ですが、このダンスの大盛り上がりは、お城の厚い壁を突き抜けて夜の王都中に届いていたようです。

 そして、翌日の新聞にはこう書かれるんですよね。「雪のハリネズミのきみ、ついにご成婚!」と。うふふ、なんとも気が早い記事ですよね。でも、そう遠くない未来に、その見出しの通りになるのではないでしょうか。

 私はハリーとの幸せな結婚生活を思い描きながら、笑顔で楽しくダンスを踊り続けました。

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