令嬢はくるくるするのが可愛いです! ~婚約破棄されましたので魔法道具づくりを始めようと思います~
天坂つばさ
第1話 突然のゲリラ豪雨
街を明るい気持ちでニコニコしながら歩いて行きます。
今日はいつもよりもおしゃれをバッチリと決めています。自慢のくるくる縦ロールの髪も百点満点のくるくる具合です。
スキップするように歩くと、くるくる縦ロールの髪がバネみたいにびよんびよんと弾みます。まるで今の私のテンションを表しているような弾み具合ですね。
さて、自己紹介がまだでしたね。
私、クルリーナ・ロールドーナツと申します。子爵家の家に生まれた立派なお嬢様、いえ、令嬢ですわ。ちなみに21歳。年頃の乙女ですね。
長い金髪を毎日丁寧に巻くのが私のポリシー。これだけは何があろうと絶対に譲れません。
ひらひらフリルがいっぱいのスカートを揺らしながら歩いて行きます。
私、両手で一枚の上質な紙を持っています。うきうき気分なのはこの紙のおかげです。これ、実は婚姻届けの紙なんです。既にお相手と私のサインは書き込み済み。今日はこの紙を旦那様になる男性と一緒にお役所へと届けることになっています。
「うふふ、テンションが上がらずにはいられませんわっ」
私、結婚します。結婚するんです! ハッピーでたまりません。世界中のみなさんに祝福してもらえているような気分です。
旦那様の家にやってきました。客室に通されます。
ちなみに、彼は中堅伯爵家のご長男様です。名前はニトロ・ビッグバン様。少し頼りないところはありますが、背は高くて優しくてとても真面目で誠実な人です。彼が旦那様になるのなら私も私の実家も安泰。これはとても素晴らしい結婚になると思っています。
客室の良い絨毯を歩き、良いソファに座らせて頂きます。
お茶を頂いていると、私の旦那様になる男性、ニトロが客室に入ってきました。
彼はすらっとしたスタイルの人です。これから婚姻届けを出しに行くからか、いつもよりも上質なベストを着ています。
あら、彼のブラウン色の瞳が少し陰ったでしょうか。こんなハッピーな日にいったいなぜ……?
あ、分かりました。マリッジブルー。あれはマリッジブルーですね。結婚するってなると急にテンションが落ち込むあれです。ここは妻になる者として元気を出させてあげねばですね。
私はソファから優雅に立ち上がりました。
「いよいよこの日が来ましたね、ニトロ」
「ああ……、来てしまったね……」
「こんな素晴らしい日に婚姻届けを出しにいけるだなんて、最高ですわよね」
「いや、外は突然の落雷つきゲリラ豪雨だけど……」
「はあ?」
私は後ろの窓を見てみました。
ピカッ、ゴロゴロゴロ――。ザーザーザーザー。ピカピカピカッ。ザーザーザーザー。
なんと強い風まで吹いています。とんでもないゲリラ豪雨です。
「な、なんということでしょう」
「最低な日になってしまったね……」
「いえ、これは神々が豪雨を使い、私たちのために穢れた街を浄化してくれているのですわ。すぐにやみます。そのときにはきっと虹がかかっているはずですわ」
「……虹、かぁ」
「はい、祝福の虹です。私たちの結婚を祝福してくれる美しい虹ですねっ」
ニトロが表情を曇らせました。なんだか辛いことがある顔です。
私は心配でニトロの傍に寄りました。そっと彼の頬に手を触れます。
近くで表情をよく見てみると、何やら強い決意があるように感じられました。私を必ず幸せにするという決意の表情でしょうか。
「クルリーナ、聞いて欲しいことがあるんだ」
「はい、なんでも聞きますわ。だって私は、これからあなたの妻になる女ですから」
「きっと僕は、きみを怒らせてしまうと思う」
「こんなハッピーな日に怒ったりしませんわ。さあ、何も怖がらず、心に秘めた気持ちをおっしゃってください」
私は彼を心配する表情を見せてあげました。ニトロが私から目をそらします。
「じ、実は結婚についてなんだけど」
「はいっ。これから幸せな家庭を築いていきましょうねっ」
「その話、なかったことにさせてくれないか?」
「……。……。……。……。……えっ?」
ピカッ、ゴロゴロゴロ――。大きめの雷鳴です。窓にゲリラ豪雨が強く叩きつけました。
私、何を言われたのか理解できず、頭の中が混乱しています。いったい私の旦那様になる人は何を考えているのでしょうか……。
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