ホビーアニメに転生したけど私はモブです!~なのにどうして逆ハーレムになるの!?~

ひゃくえんらいた

第一章

プロローグ



 十人、いや、五十人以上は居るだろうか。


 百人とまではいかないが、とにかくそれほど多くの子供たちが、皆一様みないちように同じ方向を見つめていた。ワクワクとドキドキを閉じ込めた、好奇と希望に満ちた瞳で。


 そこはスーパーマーケットの2階フロアの一角、天井からネットを四方に張り巡らされた、まるでフットサル場のようなそのフィールド内に立っているのは、


「“貴様の全て、吸い尽くしてやろう!”」


 そう叫んだのは、周囲の子供たちとは一線を画した美少年である。


 鋭い吊り目に水晶を思わせるシアン色の瞳。燃えるように赤い髪は肩程まで伸びていて、前髪は額から殆ど後ろに撫でつけ、一房だけ前に垂れている。


 美少年はゴーグルを付け、両手に握り締めた二つのコントローラーで何かを操作していた。

 そして彼が叫んだと同時に、が勢いを増して動き出す。


 それはドローンだ。


 本体からは4本のアームが伸びて、その先端にそれぞれプロペラが取り付けられている。

 基本構造は所謂いわゆるふつうのドローンと同じだ。


 違うのは、それがまるで戦闘機を思わせる、バトルに適した形をしているということ。

 赤と紫の混ざったマーブル模様のそれは、ともすれば目で追いきれないほどのスピードで、もう一方のドローンへと突進した。


 同じく、フィールド内を縦横無尽に飛び回っていたドローン。


 こちらはこちらで個性的で、全く違う色と形をしている。

 流線型の滑らかなボディに、3本のアームとプロペラ。

 黒を基調に、ところどころのパーツに青を散りばめた、形は違えど、やはり戦闘機を思わせるスタイリッシュなデザイン。


 2機のドローンは激しくぶつかり合い、それを見ている子供たちの声援が飛び交う。

 まさに会場は興奮の坩堝だ。


「“さぁ、風を奏でよう! ゲイラード!”」


 その空間に、一際高い朗らかな声が響き渡った。


 どこか興奮した様子で、その場の誰よりも瞳を爛々と輝かせている。

 その瞳は楽しくて仕方がないと、雄弁に語っていた。


 彼女の合図と同時に、黒と青の機体が動く。


――そして屋内に、その旋風せんぷうは吹き抜けた。


 誰も目で追えず、何が起こったのか分からない。


 一瞬の静寂の中を、赤紫の機体がゆるゆると床に向かって降下していく。


 そしてそのまま床に墜ちた赤紫のドローンは、沈黙。


 黒と青のドローンだけが、その上空で悠々と浮かんでいた。


「なん、だと……?」


 赤髪の美少年の、呆然とした声が静まり返ったフィールドにこだまする。


「勝者! 空宮舞翔!」


 しかし、その宣言がなされた直後、スーパー内は割れんばかりの大歓声に包まれた。


 美少年と相対していた少女。


 見た目は平々凡々な、どこにでも居そうな少女である。


 目がくりっとしてショートカットな所はやや特徴的かもしれないが、そのいかにも普通の少女が、明らかに強者の風格を纏った美少年に勝利してしまった。


 それはこの場に居る誰もが予想し得なかった、大どんでん返しの展開である。


 そしてこの二人が行っていたのは、この世界で最もポピュラーかつ人気の競技。

 名を、“バトルドローン”という。


 ドローンを操作し、フィールド内で闘わせ、先に墜ちた方が負けという至ってシンプルなルール。

 しかし時に世界を制するほどに、人々を賑わせる一大競技だ。 


 そしてその競技に傾倒する者を、人々は“ドローンバトラー”と呼んだのである!


貴様きさまっ、いったい何者なにものだ?」


 敗北を喫した赤髪の美少年は、もともときつい目付きをさらにきつく吊り上げて、少女を睨み付けた。


 少女、空宮 舞翔そらみや まいかは、その言葉と共に凄まじい形相で自分を睨む“推し”にただ冷や汗をかき黙り込むしかない。


 そう、舞翔にとって目の前で自分を親の仇かというくらいの殺気で見つめて来るその人は、なのである。


 その大好きな推しに問われたことに、舞翔は困窮した。


 何者か?


 そう問われても舞翔には答えるべき返事が無い。


 いや、正確には鹿答えしか持ち合わせていない。


――何者かって、私はただのモブなんですけど!?


(それなのに何で、推しとバトルして勝っちゃってるの、私!)

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