第58話 謎の男とヴィーナスの誕生
◇
ラティーノ、お前はいったい誰だよ?
どこからともなく情熱的なラテンの風と共に現れる彼は、爽やかな笑顔で意味深な言葉を残し、そして風と共に去りぬ謎な存在。
俺の記憶では前前世、色々とあって身体の関係から入ったアラフォーのウィラに、一世一代の告白をして見事に振られた……ああ、本当、あのときはなにを言ったか覚えていないけれど、どこからともなくラティーノが現れたのは覚えている。
その後、前前世の最期にどこかで聞いたことのある声に導かれ、近代的なファンタジーの世界で魔王になってからしばらくすれば、またラティーノが現れた。
神出鬼没、情熱的なラテンの風は、国境どころか次元を超えてしまうらしい。
その後、前世では度々遭遇したが、いつもどおり笑ってはいけないシリーズの外人さんみたいなムーブの出落ち要員かと思えば、珍しく話し込むこともあった。
彼の導きのおかげか、ウィラと再会を果たしたのもいい思い出だ……もっとも、そのときは記憶喪失だったけれどね?
おかげで後々エラい目にあったんだよな、HAHAHA!
多分、次元なんて関係なさそうなラティーノは、今回の人生でも現れた訳で、みんな知ってるようで知らない謎過ぎるラテン男の素性は、未だに解明されてすらいないし、そもそも誰だよお前は?
番頭のおばちゃんも含めて知らない彼のことを、今考えても答えは情熱的なラテンの風の中なので、時間だけが過ぎ去り湯中りする未来しか見えないだろう。
女性陣の姦しいガールズトークもしばらくすればどこか遠くに、俺たちもそろそろ上がろうか。
そんな訳で湯上がりの俺と兄貴は、身体をよく拭いてからタオルを巻き、ロッカーに入っている財布から小銭を取り出し、冷蔵ショーケースのコーヒー牛乳を2つ手に取り、番頭台のおばちゃんに渡してお会計だ。
「おっ、あんたコーヒー牛乳にしよったか。うちはフルーツ牛乳や」
同じくして湯上がりのウィラと、番頭台越しにご対面したものの……うん、相変わらず美しいな。
「トラチヨ、あんたなにガン見しとんねん? このスケベ!」
ああ、そりゃあ仕切りの切れ目だから見えてしまった以上、仕方ないから許して欲しい……それよりもだ、今すぐに俺から一言送りたい。
「ウィラ、せめてタオルを巻け。ヴィーナスの誕生かよ?」
「そらな、うちヴィーナスにも負けへんで?」
「おいウィラ、お前なにやってんだよ! いいからタオル巻けよ!」
慌ててナギ姐がバスタオルを持ってウィラに駆け寄る訳だが、相変わらずのおかんムーブで安心するよ。
ラッキースケベ的な展開もあったけれど、ウィラがおとなしくバスタオルを巻いてくれたことでようやく落ち着けるね。
ところでナギ姐、慌てたからなのか、それともタオルの丈が足りないのかわからないが、前だけ隠しているけれど余計にセクシーさを演出しているし、なによりも某大型巨人のように番頭台を余裕ではみ出している。
このタイミングで男湯の扉を開けたじーさんが、びっくりして固まってるぞ?
「あ、すまない……驚かせたな」
「おぉ、外国のお嬢ちゃん、いいものを見せてもらったのう。ナイスバディじゃ、わしゃあ危うくぽっくり逝くとこじゃったのう」
「そらナギ、あんたのチョモランマで窒息してまうからな?」
「ウィラ、もう一度やってやろうか?」
「わしも遠慮しておくわい。そのままぽっくり逝ったら、遺したばあさんに怒られてしまうからのう」
「その心配はないぜ、懺悔の言葉を口にする必要もないからな?」
「せやな、ナギのチョモランマに埋もれてしゃべれへんわ」
「「「「「「「「「「HAHAHA!」」」」」」」」」」
相変わらず規格外でハーフ顔のナギ姐は、外人さんとよく間違われるけれど、アメリカ出身なのでなにも間違ってはいないから、本場流のジョークを返すって訳だ————。
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