第56話 富士山
◇
レトロな銭湯特有の低い仕切りにより、身長191cmのナギ姐の頭がはみ出していることで、ちょっと目のやり場に困る俺と兄貴。
当然、180cm代の俺と兄貴も同じで、幸いにして他のお客さんがいないだけマシではあるが、お互い向こうの様子が気になってしまう。
その証拠に、脱衣場に女6人集まれば姦しいどころではなく、ついつい聞き耳を立ててしまうものだ。
「ナギぃ? あんた、流石にサラシ巻くの辞めたんやな?」
「ああ、もうなにも気にならなくなった……それよりもダーリンがいるからさ、張り合いがあるんだよ」
「姐さん、ちょっとはみ出てるっす」
「あ? 無駄毛ならちゃんと処理してるぜ?」
「ナギさん、そっちじゃない……羨ましい」
「ヒナコお姉ちゃん、気にしちゃだめなの! すっごいかわいいの! 貧乳はステータスなの、希少価値なの!」
「ちょっとグリーンティ、あなたは空気を読んで! あまり言わないであげて欲しいわ?」
「ジェニー、アメリカ人で特盛のあんたがそれ言うたらあかんやろ? そらオウンゴールとちゃいますか?」
「大丈夫、私の胸の大きさと引き換えに、かわいい下着がいっぱいある……あるけどやっぱり羨ましい……」
「ヒナコちゃん、流石にクマさんのバックプリントは……ちょっとあざとすぎるっす」
「あたしじゃあ似合わないんだよな……結構かわいいものも好きなんだぜ?」
「ナギ、キュートな下着もありよ! ギャップ萌えを狙えるわよ?」
「いや、ナギのお尻に撃墜マーク増やしてどないすんねん?」
「熊殺しのナギお姉ちゃんなの!」
「「「「「「HAHAHA!」」」」」」
ああ、俺と兄貴が全力で逃走した理由がわかるだろ?
ガールズトークの台風の目にいるのならまだ良いけれど、そうじゃなければどうなるかわかったものじゃないぜ?
「トラ、早く行こうぜ」
「ああ、俺も同じこと思ったよ」
さっさと服を脱いでロッカーにしまい込み、片脇にお風呂セットを抱え、キーバンドを反対側の腕に通した。
間違えても足首に付けてはいけない……その昔、同性愛者向けのサインだったらしく、それを知らずにキーバンドを足首に付けると、大変なことになる。
ちなみに作者の中学生時代ぐらいだったか、なにも知らずに足首にキーバンドを付けて身体を洗っていたら、気持ちの悪いおじいさんにからまれて朕の珍を触られたことがあるからね……ああ、そういった事例もあるから、銭湯等の公衆浴場、スーパー銭湯等では注意したほうがいい豆知識だ。
兄貴も俺も女性が好きなので、当然足首には付けないからな?
さ、そんなことよりも貸切状態なんだから、広々とした湯船を楽しもうではないか。
浴場の戸を開ければ、それはそれは見事な富士山の壁画とご対面。
昭和レトロな銭湯といえば、やっぱり富士山の壁画だよな!
「ナギぃ〜!」
「おいウィラ〜、扉の前であたしの胸と富士山を見比べてないで早くいけ〜。あとが詰まっているんだ〜」
ああ、そういえばナギ姐、ウィラにチョモランマと渾名を付けられていたな。
この様子じゃ、ゆっくりと湯船に浸かれないかもしれないな————。
◇
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