第13話 四股名
◇
フォアボールで出塁したらしい、ラブラドールレトリバーの茶太郎君は、トレーナーの女生徒にリードで繋がれ、これまた一塁ベースから離れてリードを取っていた。
実質、一塁付近にランナーが2人いるシュールな状態であり、茶太郎が帰塁、進塁、または盗塁を試みるとすれば、トレーナーも同伴というわけになるのだが、ルール云々よりもバナナボールのエンタメ要素的に多分問題ないのかもしれない。
マウンド上でパラパラを踊るサウスポーのウィラは、よく見える一塁上のランナーを警戒しつつ、バナナボール部の3番バッターと対峙していた。
3番バッターを務める、相撲部の『虎上 まさる(トラガミ マサル)』君は、稽古に励みながらバナナボール部を掛け持ちし、バッターボックス上で見事な股割り開脚を披露していた。
決して四股名ではないのだが、虎上と言えば、若貴兄弟のお兄ちゃんが引退後、芸能活動するときの四股名……ではなく、まるで芸名のようだ。
バナナボールだからこそ、当然のように股割り開脚で打席に立つ(?)、トラガミ君のストライクゾーンは狭まり、打ったあとどうするのか気になりすぎてしまうのは、ウィラも同じなのだろう。
ラブラドールレトリバーの茶太郎君に続いて低めの制球が定まらず、クソボールで3球続けてボール球を出してしまい、マウンド上で苛立っているご様子だ。
カルシウム、足りてますか?
このあと、審判に向かってボールを投げつけなければいいが、ウィラもただクソボールを投げているわけでも無さそうなのは、一塁を守るナギ姐と頻繁にアイ・コンタクトを交わしていることから、なにか策でもあるのだろうね。
緊迫した雰囲気の中、マウンド上のウィラは、一塁からリードをとる茶太郎君が、僅かに動いたところを見逃さなかった。
茶太郎君に引っ張られたトレーナーの女子生徒は、リードを強く引き戻そうとしたが、茶太郎の力は強く、思わず一塁から足を離してしまったことにより生じた隙を見逃さず、即座に牽制球を投げ込み、帰塁しようとした茶太郎君もろともランナー2人分を刺したことにより、ダブルプレーが成立した!……うん、こんなのあり?
審判は?……アウトカウント二回分をコールしたようだ。
バナナボールって、なにが起こるのかわからないね? HAHAHA!
マウンド上で飛び跳ねてよろこぶウィラをよそに、茶太郎君はおすわりをさせられていた。
バッターボックス上の虎上と書いてマサル君は、ゆっくりと立ち上がり四股を踏んで気持ちを切り替えたご様子だ。
さて、このあとの1回の裏の攻撃、チーム俺たちの明日はわからないのトップバッターは、クソチビポメ柴から始まるが、バナナボール部は、いったいどのようなパフォーマンスを繰り出してくるんだろうね?
その時、クソチビポメ柴はどんな表情を浮かべるのか、とても楽しみだ————。
◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます