第14話 ネクストバッターズサークル
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トップバッターのクソチビポメ柴は、身長144cmの小柄な体格にも関わらず、いかにも打ちそうなミスター三冠王の神主打法で打席に立ち、マウンドに向かってレンズ越しから睨みを利かせるが……視線ばかりか、頭が上下に動いている。
野球のセオリー的に即コーチが指導してもおかしくない状態であり、これではまるで狙いが定まらないが、バナナボールを舐めてはいけない。
なにせマウンド上に立つはずのバナナボール部のピッチャーは、トランポリンに乗って高く跳ね上がり、宙返りを披露しているのだからね?
そりゃあバッターのクソチビポメ柴は、いかにも打ちそうな神主打法で構えたところで、いつ、どこから飛んでくるのかわからない、アクロバティックな投球術の前に翻弄されている。
1球目は見逃し、三冠王のような雰囲気を漂わせる貫禄はばっちり。
3度目の人生もチビ、貧乳、狂犬と3度の三冠王を手にしたクソチビポメ柴は、続く2球目をなんとかバットに当てるぐらいのバッティングセンスを見せ付けた。
続く3球目、大角度からの投球もクソチビポメ柴のストライクゾーンに入らず、1ボール2ストライク。
視力は悪いが、選球眼のいいクソチビポメ柴は、4球目を見事な流し打ち。
しかし、ファーストに捕球されたファーストゴロは、とある偉大な野球人の現役最後の打席のようであった……。
クソチビポメ柴は、ベンチへと引き上げる際、なんともいえない感触というのか、なにかを噛み締めながらネクストバッターズサークル上のナギ姐に、一言二言なにかを伝えた模様だ。
頷いたナギ姐は、プルプルと笑いを堪えているような様子であったのだが、きっと気の所為だ。
おそらく三冠王のクソチビポメ柴から攻略のヒントを得たのだろう……ああそうだ、ナギ姐、そこはネクストバッターズサークルではないぞ?
ご丁寧にネクストバッターズサークル付近に、『TOHO KYOUEI』と書かれているのだが、ナギ姐は間違えて『TOHO』の左から二番目の『O』の部分に立っていた。
多分、途中から気付いていたとは思うが、ベンチのウィラとカズサさん、そして兄貴がナギ姐を指差しながら、笑いを堪えている様子が目に入り、きっと知らないフリをするしかなかったのだろう。
ベンチに戻ってきた三冠王ヒナコも、笑いを堪えるメンバーを前にして、なんら不思議な顔を一つもせず、帰ってくるなりこういった。
「……ナギさん、そこ、ネクストバッターズサークルじゃないですよ?……って言ったら、急に笑いを堪えて震えだしたけど、なんでかな?」
ああ、クソチビポメ柴、それは言わないであげて?
「「「「「「「HAHAHA!」」」」」」」
こっちも笑いを堪えるのに必死だったんだよ————。
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