第2話 ルードルの路地

 蒸気ムカデの燃料補給のため、僕らは目的地の戦線からは数キロ離れたルードルという街に寄った。ルードルはケルネの侵攻のせいで高い建物はおおかた荒れ果てて、脱皮したヘビの殻みたいに廃れていた。人の力では動かすことのできないレンガでも、火薬の前では無力らしい。あの高かった偉大な時計塔をみるも無残な有様にした、大砲を持った車に直撃すると考えると寒気がする。


 ルードルは僕が軍学校に入る数年前に家族と訪れたことがある。当時は侵攻や戦争の雰囲気は一切無く、ましてやこれからこの街の建物の大体が原型少ししか残すこと無く朽ちていくなんて誰も予想してなかっただろう。しかしながら、商売の場所が失われた今、市場は昔よりも盛り上がりを見せていた。現地に住んでいる者、国内から出張て訪れている商人、慈善で診療をしている医者なんかもいた。案外人も捨てたもんじゃないって少し思えた。本当に少しだけ。


 蒸気ムカデの補給完了予定時刻までに小隊規模の視察を命じられ、僕は市場の大通りを同僚達と歩いていた。ルードルの市場の幅はかなり長く、端へ向かえば向かうほど生活感も増してきた。元の来た道を引き返す手前、破壊された建物と建物の間の路地で人影を見た。よく見てみると四人の子供だった。うち一人は俯いて三人に向かい合うような位置にいた。三人のうち一人が胸ぐらをつかむ。俯いていた一人は恐る恐る肩にかけていたカバンからパンを取り出し三人に向けていた。そして三人はパンを奪い取った後、俯いていた一人を殴り始めた。こんな最低な状況でも弱者への風当たりは強いままらしく、正義だとかに関心のない僕からしても胸糞悪い光景だった。あまりにも見ていられなかった僕は止めようと足を一歩踏み出した。しかしそこで後ろから闇から引きずり込むように肩を掴まれた。掴んだのは同僚のアルだった。アルは俺の目を見て

「やめておけ。お前がここであのクソガキ共を追い出してもあの子は後々もっと酷い仕打ちを受けるだけだ。」

と言った。それもそうだと思い、煮え切らない感情を腹の内に残しながら引き返す小隊の列について行った。ちょうど路地の中が見えなくなるほど離れていったその時、後ろから銃声がした。小隊長が命令する前に僕含め小隊の人間は身をかがめ、22式カービン銃を胸の前へ携え辺りを見回した。辺りのパニックになっている避難民の視線をみる限り、あの路地から銃声がなったようだった。嫌な予感が頭をよぎった。結局、弱者を待ち受けるものは死なのかもしれないと、締め付けられる胸を抱えながら僕は恐る恐る路地を見た。しかし、予想とは裏腹に死に伏して横たわっていたのは弱者ではなく、搾取していた人間だった。小隊員が大声で手を挙げさせるとリボルバー式の拳銃を持っていた少年は抵抗すること無く銃を捨て、先ほどの俯きはどこかに捨て去ったかのようにこちらを真っ直ぐ見つめていた。

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