霞んでは消える戦線の地平線
@Jack_hogan_88
第1話 蒸気ムカデ
僕は地上を走っていた。それも足ではなくここ近年で発明された「蒸気ムカデ」に乗って。どうやら本当の名前は多脚型蒸気運搬車っていうらしい。普通の馬車の中を長くして、それにカニみたいな長い脚を何本もムカデみたいにつけて蒸気で走らせるんだって。昔、軍学校に入らされることになる前に通っていた学校でやたら頭が良かった奴がいた。チリチリの髪をしたすごく頭の良い、所謂秀才ってやつが。きっとああいうやつがこういうすごい乗り物だとか、消えないロウソクだとかを作るんだろうって偶に、「蒸気ムカデ」に乗るたびによく思う。
13時44分、僕達はケルネ人はホールケーキから2、3切れ取り出したような形をしているノア大陸を蒸気ムカデで横断しようとしていた。目的はノア大陸の西側の戦線の援護だ。僕達ケルネ人は名前通りノア大陸の東の国ケルネに住んでる。対して西はカバネという国がある。これはあくまで僕のイメージだけれどカバネは頭の良い奴が多い。たしか蒸気ムカデができたのもケルネにカバネの技術者が伝来してきたからってニュースがいつしかの朝刊に載っていた。
話を少し戻すけどカバネはケルネに比べて資源が少ない。軍学校の地理戦略科の授業で聞いたが各国の一帯で取れる鉱物資源がケルドでは蒸気ムカデが6両作れるのに対してカバネじゃ1.5両しか作れないらしい。食料だってそうだ。カバネじゃ西のからっ風のせいで不作な年がよくあったりする。そんな状態でよく宣戦布告ができるなとは思うけど、逆に何かを変えなければ飢え死ぬのも時間の問題だしカバネの人にとっては背水の陣なんだろう。そう、何かを変えなければ。
この戦争が続いてから1年が経とうとしている。ケルネの大統領は今回の侵攻にかなり頭にきてるらしく逆に反撃の姿勢を取るらしい。そんな威勢の果てがこの泥沼なのは一兵士の僕としてはやるせない限りだ。カバネもカバネでなかなかしぶとく、やはり頭のいい連中が多いから要所要所で足止めされてるんだと思う。この戦争で少なくともケルネ人は20万人、カバネ人は15万人は屍として血に伏している。一体いつまでそいつらの屍の上を走り、また一つ、二つと屍を生み出していくか分からない。もしかしたら次に屍になるのは自分かもしれない。今はただ蒸気ムカデの刻む足音に揺られるだけだ。
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