第4話 秘密の部屋
日塚は、西野と奈津美が視線を上にあげて、今聞いた「タルポ」のイメージを思い描こうと頑張ってる様子を楽しそうに見ていたが、とにかく話を進めることにした。
「さて、遠山さんの話、終わっちゃったみたいに思えるけど、別の所に、たぶん、さっきと違う日に書いたらしい、さらに重要なことが書いてある」
二人の目が日塚に戻って来た。
「さっきの話は、遠山さんがダークマターボールに入る所までだった。でも、本当にダークマターボールでワープをしたいのは、遠山さんじゃなくて、タルポなんだよ。遠山さんは、あくまでもこの世界の人間としてヘルプするだけなんだ。その後のこと
色々細かく読んでいくと、ことはそんなに簡単じゃない。遠山さんも、この世界の存在ではあるけど、ワープしていった先では、やはりその場所にいる人間に開けてもらわなければ、ボールから出られないんだ。当然だよね。ボールの中は、行った先とは別の世界なんだから……………どう思う?」
勘のいい西野も反応してこない。日塚はさらにひと押ししてみた。
「行った先に………」
「あっ、そうか!行った先にもう一人の遠山さんが必要なんだ!」
西野が言って、日塚が大きく頷いた。
「そういうこと。誰かが、玉を開けてやらなきゃいけない」
「ふう~ん………………で?どういうこと?」
西野の反応に、日塚は大袈裟に首を傾けて見せた。
「わかんないかなあ………なんで今日、こんな深夜に集まってもらったか……」
「あ!………えええ~!まさか、そういうこと⁉」
今度反応したのは奈津美だった。
「まさか………私たちが………開けるの?………」
日塚は、二人を見て黙って頷く。
「どど、どうやって?………」
今度声を上げたのは西野。
「何処にあるんだよ………ダークマターボール」
「遠山さんが、その情報を残している。遠山さんは、その後も接触してたらしいんだよ、タルポと。つまり、タルポと一緒に行ってしまったのは、遠山さんの一部。こちら側に残った遠山さんは、引き続きタルポの指導を受けていたんだ。だから、他にもダークマターボールに関する情報があるんだ」
「う~ん………つまり…………」
西野が、手を頭の後ろに組んで考える。
「宇宙人タルポっていうけど、そこにあるのは実体じゃないんだな。一部はワープして、一部は残ってる。個体にこだわっちゃいけないんだ。そういう出現の仕方なんだな。うん…ちょっと分かってきたぞ………で、あるの?ダークマターボール。この近くに」
「滝ノ水公園」
「めっちゃ近いじゃん」
「そう、行くだろ?今から」
「おう!行ってみよう」
日塚と西野は行く気満々になっているが、奈津美はしばしフリーズしている。二人に顔を見つめられて、ようやく、ふんふんと頷いた。
机の上の紙を集めながら日塚が言った。
「あっ、そういえば、西野、あれ持ってきた?」
「ああ、着ぐるみな。兄貴の劇団から古いの借りてきた。でも、かなり汚い。こんなんでいいのかな…」
西野は、しわしわになったビニール製の着ぐるみをバックから出してみせた。奈津美が目を丸くする。
「何これ!派手!センス悪!ピエロか何か?」
「これ、一応宇宙人なんだ。………でも、こんなのどうするんだ?」
「あっちで説明する。とにかく行こう。ここも、警備会社がいつ回ってくるか分かんないし。見つかると面倒だ」
三人は、周りを警戒しつつ学校を抜け出し、停めてあった自転車に乗って走り出した。西野と奈津美は、今、日塚から得た情報、全面的に信じたわけじゃない。でも、胸踊るものがあったのは確かだ。どんな結果になるとしても、出来そうもないことに挑戦できるのなら、そこにためらう理由はない。
滝ノ水公園についた三人は、丘の上に向かう階段の下に自転車を停めた。下の道路は、昼間は交通量が多いけど、この時間は少ない。ただ、街灯の光は届いているので、かなり明るい。日塚の導きで丘の下の植え込みの中に入っていくと、そこには、西野と奈津美が初めて見る鉄の扉があった。日塚が言う。
「昼にもちょっと来てみたんだ。この中に慰霊の部屋があって、台風の被災者への慰霊の文と、災害で出た大量の廃棄物をここに埋めたことを記した碑文がある。ここの鍵は、うちの町内会長さんが持ってたから借りてこれた」
日塚が扉を開けて三人は中に入った。中に照明設備はなく真っ暗だ。三人は、それぞれ持ってきたライトを点けて、部屋の中を見回す。本当に狭い。台座の上に碑文の板があるだけで、特に慰霊的な設備もない。日塚は、その台座の裏に回った。そこにも、低い位置に鉄の扉があった。日塚はしゃがんで、そこに付いている古いダイヤル式の錠に光を当てた。
「なんと、この錠の番号が、遠山さんの記録に書いてあるんだよ」
「へえー、六十数年前なのに?」
「うん、この扉まで開けることはなかったんだろうけど、これも奇跡だよな」
日塚は手にしたメモを確認し、後ろの二人に光を当てさせておいて、錠のダイヤルを慎重に回した。小さな音がして、錠が開いた。扉は重く、下の方が土に埋もれてるので動かない。日塚と西野が軍手をはめた手で土をどけ、力を合わせて重い扉を開けた。そこに開いた扉の空間は本当に狭く、しゃがみこんでやっと通れる程しかない。日塚はここで、持ってきた野外用のランタンを灯した。周りは見違えるほど明るくなったが、扉の奥は真っ暗なままだ。
日塚が二人の顔を順にみる。西野が黙って親指を立てる。奈津美は小さく頷いた。三人は日塚を先頭に、狭い扉の中に潜り込んでいった。
ランタンの光に照らされた内部を見て、三人は驚きの声を上げた。思ったよりずっと広い空間がそこにあった。六畳程の広さはあるように見えた。内部の空気は、何十年も閉ざされていたかもしれないのに澱んでいない。ひんやりと静まり返っている。
奈津美が内心恐れていた動物や虫の気配もない。
部屋の空間のほとんどを占めるように、丈の低い、大きなテーブル状のものがある。木製で、正方形に見える。日塚は、その上にビニールシートを敷いた。それから、遠山さんが書いたものらしい図面を広げ、光を当てて熱心に眺めている。
部屋の中を見回し首をかしげる。そして二人にも手伝わせてビニールシートをずらし、テーブルの中央に目を凝らす。指の先に神経を集中させ。表面の感触を探る。
「あっ……これかな?………」
日塚がつぶやいた。テーブルの中央付近、十センチ四方くらいの切れ込みがある。ドライバーを取り出し、そこに差し込み、こじ開け始めた。しばらく頑張って、その蓋を外すと、中に、薄く白濁した饅頭のようなものがあった。
三人はそこに集まり、光を集中させて覗きこんだが、半透明なその物体の感触が全く想像できない。
日塚は、意を決してそれをつまみ上げた。極めて薄いガラスでできているように見えた。手の上に乗せても、空気のように軽い。直感的に、地球上の物ではないという感じがする。
西野がたまりかねて言った。
「これが、ダークマターボールか?」
「う~ん、そうかもしれないけど、まだ分かんない」
日塚が答えると、奈津美が目を凝らしてつぶやく。
「中、何か入ってるの?空気だけ?真空?」
日塚は、二人を交互に見て静かに言った。
「遠山さんの記録によると、一つだけ入ってるはずなんだ。たぶん、この、ゴミみたいなの…」
「な、何?」
「…………クマムシ」
「ク、クマムシ————⁉」
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