役目を終えたオカン系勇者の現実スローLIFEは、やはりままならない。

ほしのしずく

第1話 プロローグ

 自然豊かなストリア大陸、大気にはマナという魔法の源が漂い、空にはドラゴンが飛ぶ絵に描いたような異世界。


 最果ての国であり、魔王が住まう常闇のオクタヴィアの平原にて。


 三日三晩に及んだ魔王と勇者の決着が着こうとしていた。


 膨大なマナを操り、闇魔法を発動しようと杖を構える魔王。その後ろには、部下達が固唾をのんで見守っている。


 対峙するは、ちょうど一年前日本から転移してきた勇者。


 彼の後ろにも、パーティであるエルフ族で弓使いの女性、ドワーフ族で斧使いの男性、獣人族で鉤爪を付けた少女がその一挙手一投足に釘付けとなっていた。

 


 ――ザッ。



 同時に踏み込んだ瞬間。


 勇者は光の加護を刻まれたバスターソードを振り上げ、同時に光魔法を放つ。


「これで終わりや! 魔王! 陽光一閃ライトニングスラッシュ!」


「フフ……それは、こちらのセリフだ! 月喰ムーンイーター


 つかさず魔王も生命を奪う闇魔法を放った。


 魔王の魔法は、大地を削り、近くの動植物の命を奪いながら、大きな球体となって勇者を襲う。


 一方で勇者の魔法は戦いにより、荒れた大地を癒しながら大きくなり、巨大な刃となって魔王の放った闇魔法を切り裂いた。


「フハハハハーッ! それでこそ我が宿敵! だが、我も世界を混沌に導く魔王! そうやすやすとやられはせんわ! 月喰ムーンイーター


 魔王は勇者の魔法を止めようと、再度闇魔法を発動する。

 先程よりも大きな球体が生まれ巨大な刃と化した光魔法とぶつかる。


「そんなんええから、さっさと……負けてくれてええんやで? 魔王っ!」


「フフッ、断る! 貴様には決して負けぬっ!」


 次第に両者の放った魔法は拮抗し始め、更に両名が踏み込んだ瞬間。


 空が半分に割れ、突風が吹き抜け、砂嵐が起こる。


 そのあまりの威力に全員が目を閉じた。


 そして、収まるとゆっくりと開ける。


 そこには魔王の姿はなく、傷だらけとなった勇者がバスターソードへ寄りかかるようにして立っていた。


 そう、勇者はやり遂げたのだ。


 一年間という短い期間にその使命である魔王を討伐するということを。


 信頼出来る仲間と出逢ったおかげで。


 


 ☆☆☆


 


 そんな歴史に残る出来事から、二週間後。


 ルーテルア王国、王都フリーデア。


 洋館のような外観をした勇者パーティ拠点にて。


 なぜか今からパーティメンバー全員で、勇者の故郷である日本に訪れる運びとなっていた。

 

 理由は簡単、世の中が平和になり暇となったからである。


 とはいえ、それぞれにやりたいことはあった。


 エルフ族の女性はまだ知らない土地や国を見て回り、エルフの根幹である見聞と知識を高めること。

 

 ドワーフ族の男性は、特殊な製法の工芸品や武具、未知のお酒に出会うこと。


 もちろん、獣人族の女の子もさまざまな生き物と出会ったり、お腹がいっぱいになるまで色んな料理を食べたいという夢があった。

 

 だが、どれもこのパーティメンバーが一緒に行動した上で叶えたいと思っていたのだ。


 彼らの目の前で気怠そうな表情を浮かべる勇者以外は。


「ホンマに付いてくるんか?」


「はじめから言っているように、私は付いていきます」


「儂もだの」


「ボクもー!」


「そう……ほんなら、もうちょいこっちに寄ってくれる? 今から転移魔法使うから」


 勇者は、すっかりピクニック気分のパーティメンバーに呆れながらも、手招きする。


「よし、じゃあ、いくで?」


「「「はい」」」


「なんというか、げんきんやな……こういう時だけ素直とか、ほんまに。って言うても仕方ないか、転移魔法発動……」


 転移魔法を発動させるとブォンという音と共に、一行は転移した。


 まだ見ぬ未知を求めて。

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