第22話 ヤンキーじゃない
暫く皆で話し合ったが、なかなか現実的な案は出てこない。カノンの顔が段々と曇ってきた。
ミッケがみんなに話しかける。
「まぁ、そんな直ぐに名案は出ないさ。ここからがスタートだよ。今日は一旦家に帰ってさ、各自で考えてみようよ。もう、カノンは1人じゃない、5人もいるんだから、必ず名案が見つかるよ。ボクたちの船はここから出航するんだ」
おぉ、いつの間にか船に乗っている。相変わらずミッケの言葉には勇気付けられる。
チエがそれに応える。
「そうだね、一晩考えて、明日の放課後にまた集まろうよ。明日から午前授業だしさ、良かったらお昼にみんなで駅前のハンバーガー屋に行って話そうよ。船はハンバーガー屋に寄港するよ!」
ミッケの発言に乗って、無理矢理船をねじ込んだな。しかしチエはハンバーガー好きだよね。まぁ駅前で学生がくつろげる店は、そこぐらいだけど。
それにしても、明日から午前授業。一学期は今週一杯、あと4日で終わりなんだな。
なんだか今年の夏は勉強どころじゃ無さそうだ。
5人でぞろぞろと駅へ向かう。ミッケとカノンも電車通学だそうだ。モノとミッケは上り方面、私とチエ、カノンは下り方面だ。
「カノンもスマホ持ってるよね?アタシ達のLINEグループに追加するからね」
「あぁ、わかった頼むよ」
チエはカノンにIDを聞き、慣れた手付きでスマホを操作する。
「ほい、これでOK!」
「あー来た来た。ん?『ミッケファンクラブ』……」
カノンは怪訝な顔でチラッと私達の方を見る。
「あー、このグループ名はチエが勝手に付けてね。まー、乗りでね!いや、別に嫌なわけじゃないけど、かと言って本意なわけで無く……」
「いや、オレは別に構わないよ」
何か必死に弁解して微妙な空気になってしまった。
駅に着き改札を通る。上り組とはここでお別れだ。カノンがスッと前に出て、こちらに向き直る。
「オレなんかの為に、みんなありがとう」
そう言うと、深く頭を下げる。
「イヤイヤ、いいよそんなー。顔あげてよ」
カノンはこんな見た目だけど誠実な人なのかもしれない。しかし、ヤンキーにお礼を言われる女子4人の図は、なかなかインパクトがある。周囲の人達から視線を浴びて、かなり気まずい。
暫くやり取りをしてから、ようやく上り組と別れた。
下り線では3人で電車に乗る。仲良く(?)並んで座ったが、ここでも乗客が遠巻きにチラチラ見ているのがわかる。
まぁ、地味な女子二人に黄色い髪のヤンキーの組み合わせ。違和感アリアリだろう。
そんな中、チエは視線など気にもせず、カノンに話しかける。
「どうして髪を黄色に染めてんの?」
「……黄色が好きだから」
「へぇー、でもカッコいいよね、さすがヤンキーって感じ」
「いや、ヤンキーじゃないし」
「でも、ヤンキーとかちょっと憧れたりするよね」
「だから、ヤンキーじゃないし!どっちかと言うと嫌いだから」
チエの距離の詰め方は凄まじいな。この後も何度か「ヤンキーじゃない」というやり取りを聞いた。
私は乗車中カノンがいつ怒り出すかと、ヒヤヒヤして過ごした。
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