第10話 束の間の平穏

二日後。アッシュとアルペは戦勝祈願にスカビオサ家が代々受け継いできた神社に参拝し、その帰りに近くの花畑に寄っていた。

色とりどりの花たちに囲まれて、二人はロバートの思い出を語り合った。最近はずっとバタバタしていたから、久しぶりにゆっくりした時間を過ごしていたし、久しぶりに笑っていた。


「━━それでその時バート兄様がね、こんなことを言ったのよ……」


「……あははっ、そんなこともあったね━━」


ひとしきり話して、ひとしきり笑って。

日も沈みだしてきた。夕陽を反射して橙に輝く海を背に、二人は帰り道を歩き出す。

並んだ後ろ姿を、風に揺れた黒いチューリップが見送っていた。



それから一週間後。軍を立て直したヴォルディオが再びリル島に攻め入って来た。


「それじゃあアッシュ、後援軍は任せたよ。僕が合図するまでは海の上で待っていてくれ」


「わかってるわ。今度は二人で、バート兄様の仇を討ちましょう。私たちなら勝てるわ」


「そうだね。僕らなら、きっと」


視線を交わし、準備に戻ろうと踵を返したアッシュをアルペは呼び止める。


「……ねえ、アッシュ。この戦いの勝って、帰って来たらさ。僕と結婚してくれないか」


言われたアッシュは目を見開く。しばらくして、言葉の意味を頭で理解した途端に、サッと顔が林檎より真っ赤に染まった。


「本当にいいの、私で」


「君以外には考えられないよ」


「私女の子らしくないよ」


「関係ないさ。アッシュはアッシュだろう」


「……もう、敵わないなぁ。それじゃあ、二人とも何がなんでも絶対に帰ってこないとね。あーあ、兄様にはもうちょっと一人で待っててもらわないといけなくなったなぁ……」


今更のように二人して気恥ずかしげにはにかんで。

お互いにポケットからいつぞやに二人で海岸を歩いた時に拾った貝殻を取り出す。それを手に握り込んで、コツンと拳を合わせた。二人には、これだけで十分だった。それだけの歳月が、初めて出会ったあの日から既に流れていた。

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