5話 護衛兼ペット

2024/12/10 本日2話目です。ご注意ください。


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 部屋の案内を受けた後、リーリェにこの後どうするのかと問うと、どうやら3人はダンジョンに向かわなければならないという。


 ……3人がいないってことは、その間俺は1人というわけか。ん? 待てよ。


「──ってことはその間俺はずっと部屋にいなきゃいけないのか?」


 家事をするにしても全てがこの家にあるとは限らない。そうなれば必然的に外へと買い物に行く必要がでてくるが……。


 俺の問いに対し、リーリェは別段戸惑った様子もなく、淡々と口を開く。


「それについては1つ考えがございます。ニア」


「ん」


 言ってニアが頷くと、ついに俺の背から降りた。と、ここで憐花がハッとすると、俺に声をかけてくる。


「あっ、一応言っておくけど私たちの能力については他言無用ね」


「……? おう」


 なぜ今能力のことを? と疑問に思いつつ返事をすると、眼前にやってきたニアが相変わらずの眠たげな瞳でこちらを見上げてきた。


「雄馬、どんな動物が好き?」


「ど、動物……? あーそうだな。無難に犬とか猫とかモフモフしたやつが好きだな」


「わかった。なら、あの子にする」


「あの子?」


 俺が首を傾げたその時、俺の眼前に立つニアの雰囲気が変わった。


「……っ!?」


 困惑する俺をよそに、ニアは開けたスペースへと手を向けると、呟くように声を上げる。


「サモン『シャドウウルフロード』」


 瞬間、床に2m程の黒い魔法陣のようなものが浮かび上がると、その中から黒毛で覆われた大きな狼が姿を現した。


「…………ッ!?」


 その迫力に俺は思わず息を呑む。


「私の力、召喚術(闇)。雄馬こわい?」


「……いや。驚きはしたけど怖くはないな。むしろこんな強そうな狼を呼べるなんて凄い力だな」


「ん。ならよかった」


 ニアはホッとしたように頷いた後、再度口を開く。


「今日からこの子が雄馬のペット兼緊急時の護衛。名前をつけてあげて」


「名前か……」


 改めて大狼と目を合わせる。


 ……なるほど、『ロード』の名に相応しい凛とした佇まいだな。


 狼に目をやるが不思議と恐ろしさは感じない。それは一切の敵意を感じないからか、それとも思いの外毛がモフモフとしており、カッコ良さの中に可愛さもあるからだろうか。


「ニア。この子の性別はどっちなんだ?」


「ん。女の子」


「なるほど……なら──カトレアとかどうかな?」


「カトレア……花の名前?」


「そう。優美とか気品って花言葉があって、この子の美しさにあってるかなと。どうかね?」


 大狼が俺の元へと近づき、体を擦り寄せてくる。


「ん。気に入ったみたい」


「だな。よろしくな、カトレア」


「ワフッ」


「この子は影に潜れる。だから外出時は雄馬の影に潜んでいてもらう」


「そんなことできるのか」


「ん。この子は優秀」


「すごいなカトレア」


 カトレアは尻尾をブンブンと振りながら「ワフッ!」と吠える。

 俺は再度彼女を撫でてやった。


 そんな俺たちのやりとりを見て問題ないと判断したのか、リーリェが口を開く。


「さて……それではいきましょうか」


「ん」


「わかったわ」


 リーリェの言葉にニアと憐花が頷き、3人は玄関へと向かう。


 俺はカトレアと共に彼女たちの後を行くと、3人が出かける直前に声を掛けた。


「みんな行ってらっしゃい。気をつけてな」


 瞬間、呆けた顔でこちらを見つめてくる少女たち。


「3人してどうしたその間抜け面」


「その……誰かに送ってもらうのがこんなに良いものだとは思わなかったわ」


「ですね」


「ん」


「あーまぁそうだよなぁ」


 実際俺も長いこと一人暮らしをしていたため、気持ちはよくわかる。

 たった一言「いってらっしゃい」の声があるだけでどれだけ力になることか。


「明日以降もお願いしていいかしら」


「そりゃもちろん。帰りも毎日夕飯と共に盛大に迎えてやるから覚悟しときな」


「ふふっ、それは楽しみね」


 憐花の言葉の後、3人はそれぞれ笑みを浮かべる。

 そんなやりとりを経て、彼女たちは家を出た。


 ◇


「ふぅ。さて今からどうしようか」


 考えてみると、ここまで心に余裕がある自由時間はここ1週間を除けば数年ぶりのことだ。


「基本休み週一の上、疲れすぎて寝て終わってたからなぁ。振り返るとようあの環境でよくやってたわ」


「ワフッ」


「慰めてくれるのか? ありがとなカトレア」


 まったく、怖いもので慣れなのか、それとも感情を失っていたのか。いつからかそんな働くだけの日々が当たり前になっていた。……でもこれからは違う。


「って言ってもやっぱなんも仕事がないのはそれはそれでなぁ」


 家の中では基本自由にしていいと言われているため、とりあえず彼女たちのパーソナルスペース以外は全体的に掃除したいところ。あとは……今日の夕食を作らなきゃな。


 そう思いながら冷蔵庫を開くと、憐花を中心に自炊をしていたのか、思いの他食材や調味料は揃っていた。しかし4人分の夕飯を作るには少々物足りない。


「よし。ならまずは周辺地域の把握ともろもろ購入するために散策にでもいくか」


 ……とその前に。


「カトレア」


「ワフッ!」


「改めて俺は臨海雄馬だ。戦闘能力は皆無だから、いざという時は護衛よろしくな」


「ワオォォン!」


 近づき、モフモフとした毛並みを堪能していると、カトレアはペロペロと舐めてくる。


「ははは! こそばゆいって!」


 こうして少しの間戯れた後、俺は彼女に問いかけた。


「っと、そうだ。さっきニアが言ってた影に入るってやつだが、早速実演してもらえるか?」


「ワフッ!」


 わかった! とばかりに小さく返事をした後、カトレアはスッと抵抗なく地面の中へと潜っていった。そして数瞬の後、あらゆる場所から顔を覗かせてみせる。


 ……なるほど、影の中を移動できるのか。


「ありがとうカトレア。よく理解できたよ」


「ワフッ!」


「んじゃ今から外出するから、その間の護衛よろしくな」


「ワフッ!」


 カトレアは返事をすると、再び影へと入っていく。その姿を確認した後、俺は外へと出た。

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