死んだ俺は閻魔様の加護を受けて、ラブコメ主人公に生き返った件について

ウイング神風

第1話 閻魔様と出会う

 僕は伊藤哲也。16歳。千観高等学校2年A組。

 そして、僕は今大ピンチに陥っている。それは、僕が死んでしまったのだ。今でも、魂が体から抜け出していることを感じた。

 きっかけは、おばあちゃんが横断歩道を渡っているところ、暴走したトラックが走って来た。

 僕は急いで、おばあちゃんを避難させる。

 横断歩道にダッシュし、おばあちゃんを抱えてスライドをする。

 陸上部だった僕は、遅れをとることなく、走れたのだ。

 しかし、その後が問題だった。

 それは、おばあちゃんを優先しすぎたせいで、僕は道路に頭をぶつけた。


「……これは、僕の血?」


 熱い赤い液体が頭から流れ出る。

 それとともに僕の意識は朦朧となる。

 ……ああ、いけない。僕の意識が飛んでしまいそうだ。

 そこまでサイレンの音が鳴り響いていた。救急車なのだろう。


「……おばあちゃん、大丈夫?」


 と、僕は自分の心配よりも、おばあちゃんの心配をしたのだ。

 おばあちゃんはカタカタ震えながら、僕の方を眺めていた。

 それは僕が血だらけで、恐怖しているのか、あるいは、トラックのスピードにまだ恐怖しているのか、どちらかだろう。

 とにかく、僕からの視線からは彼女は無事だった。外傷はない。


「……よかった。おばあちゃんが無事で」


 と、僕はそう呟くと意識が消えた。

 ぷつり、と操り人形の糸が切れたかのように意識が途切れる音がした。


 ……ああ、僕は死ぬのか。


 と、そう思ったのだ。


「おい。大丈夫か! 少年」

「ダメだ、意識がないぞ!」

「救急搬送だ!」


 僕を呼ぶ音がしたけど、僕は返事することはできない。

 もうどうにでもなれ、と僕はそう思ったのだ。


◇ ◇ ◇


 気づけば、僕の全身は熱く感じた。

 振り向くと、そこには灼熱の炎があった。僕を囲むように炎は動き出す。

 その炎の踊りに僕は逃げるように動き回る。


「熱い! ここは一体?」


 今の状況を整理する。

 僕はおばあちゃんを救い、頭を道路にぶつけた。

 結果、意識が途切れてしまった。

 気づけば、この煉獄の炎が燃えている場所にいる。

 もしや、ここは地獄なのか?


「次の死者を連れて来い!」


 と、そう叫ぶ音がするとともに僕の目の前に大きな顔があった。

 赤い顔をした鬼のようなもの、道服のようなものを見に纏い、全身は3メートルのほどの高さもある鬼と目が合う。

 その鬼は黒い帽子を被り、手には剣を手にしていた。

 鬼ではない。鬼はこんなような格好をしない。

 なら、これは一体なんだ?

 そんな推測をしていると、僕はあることに気づく。

 そう。彼の名前は……


「閻魔様」


 ……地獄の冥界を守るもの。閻魔であった。


「いかにも、わしは閻魔じゃ。死者を選別する役割を持つ」


 閻魔は自己紹介するようにそういうと、剣を僕の前に振り下ろす。


「汝の死を言え!」

「はい。僕は若くして死んだことを後悔しています。僕はおばあちゃんを救うために、飛び出して、道路と頭を打ちました」


 僕は自分が思い出している範囲の死を閻魔様に伝える。

 嘘は通用しないことは理解できている。

 だって閻魔様は全てを知っている。嘘つきは舌を切られるのだ。


「汝の言うことは事実である。こんな若いものが先に立つのは不運じゃ。それも、他人を助けるために死んだのは勇敢な戦士にも見える。汝には地獄に導くのは酷な選択だ。よって、汝にチャンスを与えよう」

「ちゃ、チャンスですか?」

「いかにも、汝を生き返らせよう。そして、汝に加護を与えようではないか」


 閻魔様が優しく見える。

 あの、泣く子でも黙る閻魔様が僕に慈悲を与えてくれている。

 これは絶好のチャンスなのかもしれない。

 僕はまた生き返るのかもしれない。

 なら、幼馴染の清子にも会える。まだ、最後の別れじゃない。


「生き返らせる前に、一つ。お主に聞かなければいけない」

「はい。なんでしょうか? 閻魔様」

「汝は、何になりたい?」


 その問いに、僕は眉間に皺を寄せる。

 だって、いきなり何になりたい、と聞かれても、僕に即答できる力はない。

 僕はバカでもある。昔は陸上一択でしか生きて来なかった。

 勉強もできない。モテもない。

 でも、一つだけ、憧れているものがあった。

 それは……


「僕は、ラブコメの主人公のような生き方を送りたいです」


 ……そうだ。僕はラブコメのような主人公の生き様を真似したかった。

 あの青春キラキラとした世界に、僕はすごく憧れた。

 だって、キャラクターはみんな生き生きとしていて、モテているのだ。

 僕もあのような世界にいたかったのだ。


「なるほど。要はお主、モテたいと言うのだな?」

「はい。僕の一つの後悔でもあります」

「よかろう、閻魔の名において、汝に加護を与えようではないか」


 閻魔様が再び剣を振ると、炎が踊り出す。

 先ほどとは違って、熱い炎ではなかった。

 僕はそんな心地いい炎を身に纏い、目を瞑った。


「汝よ。生き返って、みんなに感謝するんだぞ」

「はい。ありがとうございます。閻魔様」


 僕は閻魔様に会釈をする。

 彼は僕の死を決定できるのに、こうして加護と生き返らせるんだ。

 これは幸福で受け取るしかなかった。

 そして、僕の体(魂)は炎に燃やされる。

 これから僕は生き返るのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る