紗和が教える!境界知能の苦悩について

星咲 紗和(ほしざき さわ)

第1話 見えない困難 ― 境界知能って何?

私たちが日常生活を送る中で、何気なく「普通」と呼んでいるものがあります。普通に話し、普通に考え、普通に行動する。それができることが当たり前とされている社会の中で、「普通」の枠から少し外れた特性を持つ人たちがいます。その一つが「境界知能」です。


境界知能とは、知的能力が平均より低いものの、知的障害とは診断されない状態を指します。IQで言うと70~85程度の範囲に該当し、知的障害(IQ70以下)のような福祉支援の対象にはならない場合が多いです。そのため、支援が届きにくく、目立たない苦しみを抱えやすいのが特徴です。


でも、「普通に見える」のです。見た目も会話も一般の人と変わらないことが多いため、「努力不足」や「怠けている」と誤解されることが少なくありません。しかし、その中では多くの葛藤が渦巻いています。学校では「なんでこんな簡単なことができないの?」と怒られ、職場では「これくらい普通でしょ」と無理を求められる。日常の中で、普通の速度や理解を求められるたびに、「自分がダメなんだ」という感覚が積み重なっていきます。


私が境界知能を意識し始めたのは、友人との会話がきっかけでした。彼女は学校での学習について「みんなが簡単だって言うけど、私には全然わからなかった」と語ってくれました。その後、彼女が「自分だけ何かがおかしい」と思い続けた末に境界知能と診断されたと知ったのです。


そのとき、私は初めて「普通」という言葉が持つ無意識の暴力に気づきました。周囲の期待に応えられない彼女の苦しみ、それに気づかず「もっと頑張れば」と励ましてしまった自分。境界知能という言葉がなければ、彼女の苦悩に気づくことはなかったでしょう。


このエッセイでは、そんな「見えない困難」を紐解きながら、社会が境界知能をどのように理解し、支援していけるのかを考えていきます。次回は、学校生活で彼らがどんな壁にぶつかり、どのような苦労を経験するのかについて掘り下げてみたいと思います。


「普通」とされる枠を超えて、私たちにできることは何か。ぜひ一緒に考えてみてください。

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