第8話 揺れる想いと固い決意
ムハマドとラクシュミは、互いの想いを確認し合った後も、表向きは普通の学校生活を続けていた。しかし、二人の間には以前とは違う空気が流れている。廊下ですれ違うたび、ふとした瞬間に目が合う。何気ない会話の中でも、そこには特別な温もりが感じられた。
しかし、ラクシュミの変化は、周囲の人間にも少しずつ気づかれ始めていた。
メイドの疑念
ラクシュミの家に仕える忠実なメイド、スンダリは、その変化にいち早く気づいた一人だった。彼女は幼い頃からラクシュミの世話をしており、まるで母親のように彼女を見守ってきた存在だ。
最近のラクシュミは、明らかに様子が違っていた。家で一人のときに微笑む姿や、何かを考え込むような表情、時折顔を赤らめてうつむく仕草。それは、スンダリにとって見慣れたラクシュミとは別人のように思えた。
ある日、スンダリは思い切ってラクシュミに話しかけた。
「ラクシュミお嬢様、最近どこか浮かれていらっしゃるように見えますね。何かいいことでもありましたか?」
ラクシュミは驚いたようにスンダリを見たが、すぐに微笑んでごまかした。
「そんなことないわ。ただ、少し学校が楽しいだけよ。」
だが、その反応は逆にスンダリの疑念を強めることになった。
スンダリはその後もラクシュミの様子を注意深く観察していた。そしてある日、彼女が部屋で手紙を書いているのを見てしまう。そこに書かれていた名前は「ムハマド・カルマ」。
「ムハマド……?そんな名前、聞いたことがないわ。」
スンダリはその場では何も言わなかったが、後でラクシュミに問い詰める決心をした。そして夜、二人きりになったとき、ついに切り出した。
「お嬢様、あのムハマドという方とは、一体どのようなご関係ですか?」
ラクシュミはしばらく黙っていたが、やがて意を決したようにスンダリを見つめた。
「彼は……私の大切な人よ。」
その言葉を聞いたスンダリは愕然とした。
「ですが、お嬢様。あなたにはすでに婚約者がいらっしゃいます。ご両親が決められた、立派な方が。」
ラクシュミは顔を曇らせたが、すぐにきっぱりと言い返した。
「私には関係ないわ。私は、自分の心に従いたいの。」
それでもスンダリは諦めず、ラクシュミを説得しようとした。
「お嬢様、そのような行動はご家族にとって大きな問題を引き起こします。それに、相手の方が……その、適切な身分の方でなければ……。」
「もうやめて、スンダリ。」
ラクシュミの声には、これまで見たことのない強い意志が込められていた。
「私の気持ちは変わらない。彼がどんな身分だろうと、私は彼を選ぶ。それがどんなに難しいことであっても、私は後悔しない。」
スンダリは言葉を失った。幼い頃から知るお嬢様の目に、これほどの覚悟が宿っているのを初めて見たからだ。
その夜、スンダリは一人で思い悩んだ。お嬢様を守るべき立場として、この関係を許していいのだろうか。しかし、彼女の意思の強さを前にして、無理に引き離そうとするのは果たして正しいのか――。
「ラクシュミお嬢様……あなたは本当にあの方と幸せになれるのですか?」
その問いを胸に抱えながら、スンダリは浅い眠りについた。
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