第1話 異物としての第一歩

 サラスヴァティ学園の校門をくぐった瞬間、全身が強張った。目の前に広がる豪奢な建物、整備された庭園、そして高級車で送り迎えされる学生たち。そのどれもが、俺の知っている世界とはまるで違った。

 校内ではすぐに「異質な存在」として注目を浴びた。俺の肌の色、服装、話し方。すべてが「浮いている」のだ。

 「おい、見ろよ、あいつ。ダリットの奨学生だってさ。」

 背後からひそひそ声が聞こえた。振り向くと、金色の刺繍が施された制服を着た少年たちが、嘲笑を浮かべながら俺を見ていた。

 その時だった。

 「君、名前は?」

 はっきりとした声が俺の耳に飛び込んできた。振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。黒髪をきれいにまとめた彼女の姿は、まるで神話に出てくる女神のようだった。

 「君、名前は?」

 その声の主に目を向けると、まるで学園そのものが持つ気高さを象徴するような少女が立っていた。彼女の瞳は深い琥珀色で、そこに宿る強い意志は、周りの誰とも違うものだった。

 「……ムハマド・カルマ。」

 俺は少し緊張しながら答えた。

 「ムハマド……ね。私はラクシュミ・ヴェーダ。」

 彼女の名前を聞いた瞬間、心の中に重い響きが広がった。ヴェーダ家は、インドで最も名の知れたバラモンの家系。つまり、彼女は俺とは最も遠い世界の人間だった。

 「何か用か?」俺は警戒心を隠さずに聞いた。

 「用というわけじゃないけど……あなた、ここにいるのを楽しんでいないでしょう?」

 彼女の口調には皮肉や悪意がなく、ただ純粋な興味と優しさがあった。それが逆に俺を戸惑わせた。

 「別に楽しいも楽しくないもない。ただ、生き延びるだけだ。」

 俺がぶっきらぼうに答えると、彼女はふっと笑った。

 「そう。けど、生き延びるだけじゃもったいないわ。この学校には、あなたみたいな人が必要かもしれないから。」

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