映画は観るもの、触るもの?

縞間かおる

第1話 血塗られた蠢き

 私の手には、まだあの時の感覚が残っている。


 私の内ももの上を這っていた手を目掛けて振り下ろしたコンパスは

 恐らくは手の甲の骨をかすめて、針の長さ一杯に突き刺さった。


 握り締めたコンパスの冷たさとぬるんとした血の生温かさ。

 グロテスクなは私のスカートの上に留めらている。


 でも、その男の手から……

 私ののスカートの裾の上にパスケースが落ちたのも事実だった。


 英語の成績がダメダメな私には、今の映画のセリフは無機質のざわめき


 耳を打つのは

「定期……落ちてました」とのかすれた声


 真実がどうであろうと

 映画館の分厚い扉の外で

 怪我させた男の手をハンカチで押さえて

 私は謝るしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る