呪詛ゼミ
ジロギン
憑依事案(全4話)
憑依事案①
PM 4:05
東京都立
この実験室は放課後、オカルト現象の研究や心霊スポット探索などを行っている心霊同好会の活動場所となる。
木製の椅子に座り、実験用の大きな黒い机に向かって一人で本を読んでいるのは、心霊同好会のメンバー・シゲミ。残りの同好会メンバーが揃うのを待っている。彼女は爆弾を使って悪霊を始末する女子高生殺し屋。実家は祖母の代から悪霊を専門にした暗殺業を営んでいる。
実験室の扉が開き、メガネをかけた少年が入って来た。名前はトシキ。シゲミと同級生で、心霊同好会のメンバーである。
トシキ「あっ、シゲミちゃん。ちょうど良かった。お願いしたいことがあって」
シゲミ「……まさか2人きりのこの空間を利用して性的なことを」
トシキ「いやいや、たしかにボクは自分の性欲に従順だけれども、友達に要求するほど堕ちてないさ。ボクの
トシキはシゲミの右隣の椅子に腰掛ける。
トシキ「従兄弟は6歳上で、先月実家を出てアパートで一人暮らしを始めたんだ。でも入居した途端に体調を崩しちゃって。今はほぼ寝たきり状態なんだよね」
シゲミ「それならお医者さんに相談したほうが良いんじゃない?」
トシキ「もちろん病院にも行ったそうなんだ。しかも4箇所。けど病気は見つからなかったんだって。数値上は健康そのものなんだけど、実際に従兄弟を見ると素人でもわかるくらい衰弱してて……ミイラみたいに痩せ細ってた」
シゲミ「妙ね」
トシキ「でしょ?もしかしたら、ボクの妄想に過ぎないけど、幽霊が原因なんじゃないかと思って……論理的じゃないのはわかってる。それでも一度シゲミちゃんに従兄弟を見てもらいたいんだ。幽霊に詳しいシゲミちゃんなら何かわかるかもしれないから」
シゲミ「……力になれるかはわからないけど、良いよ」
トシキ「ありがとう。明日授業が終わったら一緒に従兄弟の家に行ってくれる?」
−−−−−−−−−−
翌日 PM 3:15
トシキの従兄弟・マサヒトが住むアパートの前に到着したシゲミとトシキ。2階建ての木造で、初めて一人暮らしをする若者が選びそうな、いわゆるボロアパートだ。
トシキの案内で、さび付いた階段を上がり2階へ進むシゲミ。202号室がマサヒトの部屋だ。トシキがインターホンを押した3分後に玄関扉がゆっくりと開いた。アパートの大きさからして部屋はそう広くない。インターホンを押してから中にいる人間が扉を開けるまで3分もかかることはまずないだろう。これだけ時間がかかったことこそ、マサヒトがろくに動けないほど衰弱しているのを物語っていた。
シゲミとトシキを出迎えたるマサヒト。骸骨と見間違いそうなほど痩せ細り、顔色は真っ青だった。
トシキ「マサヒトくん、お見舞いに来たよ」
マサヒト「ありがとう、トシキ……そっちの子は……?」
マサヒトの声はかき消えそうなほど細い。
トシキ「ボクと同じ心霊同好会のシゲミちゃん」
シゲミ「よろしくどうぞ」
会釈するシゲミ。
マサヒト「よろしく……で、なんで友達を……?俺、こんなだから……もてなしなんてできないのに……」
トシキ「マサヒトくんの状態をシゲミちゃんに見てもらおうと思ったんだ。シゲミちゃん、幽霊とか怪現象とかに詳しいから」
マサヒト「またお前のオカルト思考か……でも……そういう類いの何かが起きてるとしか思えないしな……」
トシキ「ということで上がらせてもらうね。マサヒトくんは寝てていいよ」
シゲミとトシキはマサヒトの部屋に入った。6畳ほどの狭い空間にベッドや本棚など最低限の家具が置かれた簡素な部屋。マサヒトはベッドの上で仰向けになった。部屋と玄関の数メートルを往復しただけだが、マサヒトは息を切らしている。
シゲミはマサヒトの頭からつま先までをジロジロと観察した。
トシキ「シゲミちゃん、どう?」
シゲミ「マサヒトさんの体が邪気を放ってる。幽霊がまとっている気配みたいなもの。生きている人間が邪気に当てられ続けると、心身に不調が起きることがあるの」
トシキ「邪気……」
シゲミ「邪気は生きている人間が放てるものじゃない。幽霊独特のもの」
トシキ「じゃあなんでマサヒトくんが……?」
シゲミ「おそらく『憑依』されている。この邪気はマサヒトさんに『憑依』した悪霊が放っているものだと思う」
トシキ「『憑依』!?そんなことが……」
シゲミ「私ができるのは、爆弾で悪霊を
トシキ「それはダメだよ!」
シゲミ「わかってる。単独で存在している悪霊の駆除なら私の専門だけど、人間に『憑依』した悪霊を駆除するノウハウは持ってないの」
トシキ「そんな……」
シゲミ「でも何とかできそうな人を知ってる。その人に連絡してみましょう」
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