第15話 ガリア戦役五年目-2
テームズ河畔の攻防
カエサル軍はテームズ河畔に到着した。対岸には防柵が築かれ、ブリタニア軍が集結していた。だがカエサルは迅速な行動を選び、大挙して河を渡るよう命じた。
「兵を小出しにするのは得策ではない」とカエサルは言った。
総司もそれに同意する。
「孫子も兵の逐次投入を禁じています。一挙に渡河するのが正解です」
ローマ軍は迅速に渡河し、敵陣に迫った。敵は圧倒的な速さと規模に恐れをなし、戦場を放棄して逃走した。
カシヴェラヌスの最後の抵抗
敗北を重ねたカシヴェラヌスは、正面戦闘を避けてゲリラ戦法に戻った。四千人の兵を残し、他の兵を解散させて森に潜伏し、ローマ軍を翻弄しようとした。しかし、カエサル軍の綿密な戦術と忍耐力により、ゲリラ戦も次第に効果を失っていった。
「敵が森に撤退したか。追撃するぞ」とカエサルが命じる。
総司は冷静に分析した。
「森全体が要塞化しているようですが、ローマ軍の統率力ならば問題ありません。二方面からの攻撃で包囲するのが効果的でしょう」
カエサル軍は計画通りに二方向から森に侵攻し、激しい戦闘の末、カシヴェラヌスの拠点を陥落させた。これにより、ブリタニア側の士気は崩壊し、戦意は失われた。
降伏と講和
カシヴェラヌスは、ケント地方の部族長に命じてローマ軍の海岸陣営を攻撃させたが、これも失敗に終わった。四面楚歌となった彼は、ガリアの部族長コミウスを仲介に立てて、ついに降伏を申し入れた。
「どうします、お父様?」と総司が問う。
カエサルは考えを述べた。
「ブリタニアを治めるには、彼ら自身を使うのが最良だ。カシヴェラヌスに引き続き治めさせる。ただし、人質を取ることで支配を確実にする」
カシヴェラヌスに対し、年貢金と他部族への攻撃禁止を条件に講和が成立した。ローマ軍はブリタニアを去る準備を始め、海を渡るため二回に分けて輸送が行われた。カエサルは二回目の輸送船団に乗り、無事にガリアへ帰還した。
ガリアでの不穏な動き
ブリタニア遠征を終えたカエサルを待っていたのは、ガリアの不穏な情勢だった。その年の小麦の収穫が不作であり、全軍を一か所に集めての冬営は不可能であった。カエサルはやむを得ず、八個の冬営地に軍団を分散する決定を下した。
「分散することでリスクが増えますが、これしか方法はありません」と総司は言った。
カエサルもそれを認めつつ、指揮官たちに厳重な警戒を命じた。
エブロネス族の反乱
カエサルの計画は慎重に進められたが、ガリア東北部で予期せぬ反乱が起きた。エブロネス族が反旗を翻し、サビヌスとコッタ率いる九千のローマ兵を奇襲したのである。この反乱の背後には、トレヴェリ族の煽動があった。
サビヌスとコッタは、陣営地を放棄するか否かで意見が分かれた。
「この陣営地を守り抜けば、援軍が来るまで耐えられる」とコッタが主張する。
「いや、ここに留まれば全滅する。移動すべきだ」とサビヌスが反論した。
激しい議論の末、サビヌスの意見が採用され、ローマ軍は陣営地を放棄して移動を開始した。しかし、深い谷に差し掛かったところでエブロネス族の待ち伏せ攻撃を受けた。
悲劇の全滅
エブロネス族の襲撃は計画的で、ローマ軍の隊列は崩壊した。コッタは円陣を組んで抵抗したが、敵の猛攻に次第に押されていった。一方、サビヌスは交渉を試みるため武装を解いたが、それは敵の策略だった。エブロネス族は武装解除したローマ兵を包囲し、無慈悲に殺戮を開始した。
コッタも戦死し、サビヌスと彼の部隊は全滅した。九千のローマ兵の命が失われ、エブロネス族は大勝利を収めた。
次なる戦いへの準備
この悲劇的な報告を受け取ったカエサルは激怒した。彼は残りの軍団に対し、即座に反撃の準備を命じた。総司もその計画に協力し、慎重に次なる戦いの布石を打つ。
「我々は必ずエブロネス族に報復し、ガリア全土を再び平定する」とカエサルは決意を固めた。
ガリア戦役五年目はこうして激動の中で幕を閉じた。だが、さらなる試練が待ち受けていることは明らかだった。
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