第4話 スペイン属州総督

紀元前61年、ガイウス・ユリウス・カエサルはスペイン属州総督に任命された。これは彼の政治的なキャリアにおいて重要な一歩であり、野心を抱く彼が名声を築くための好機でもあった。そして、彼の養子となったカキウス・ユリウス・ソウジ――かつての現代日本からの転生者・柿薄総司もまた、この任務に深く関与することとなった。

軍事改革のはじまり

「お父様、軍を変える必要があります」

総司はカエサルの執務室で切り出した。彼の目は真剣そのもので、現代の知識を活かした軍事改革案を手にしていた。

「まず、傭兵制から徴兵制への移行です。兵士たちに給料を支払いながらも、国のために戦う誇りを持たせることで、軍の士気を飛躍的に高められます」

カエサルは巻物に目を落としながら、静かに頷いた。「面白い考えだ。しかし、実現するには政治的なハードルも高い」

総司はさらに続けた。「もう一つは騎兵の強化です。現在のローマ軍では騎兵の比率が全体の1割にも満たないですが、これを少なくとも全体の2割にまで引き上げます。そして騎兵隊を主力として運用する方法を導入します」

「東洋ではそれが主流だという話だったな?」

「はい。中世の東洋の戦術を前倒しで取り入れるのです。これが実現すれば、ローマ軍は他国の軍に対して圧倒的な優位性を持つことができます」

カエサルは息をつき、微笑んだ。「ソウジ、お前の考えは実に革新的だ。しかし、これを実現するためには細心の注意を払わねばならない。元老院派の目がある」

改革の実現

総司の提案をもとに、カエサルは動き出した。徴兵制を導入し、兵士たちに忠誠と誇りを求めつつ、報酬も十分に支払う。そして、騎兵隊の訓練を強化し、その人数を増やしていった。これにより、ローマ軍は短期間で驚くほどの戦力を持つ軍団へと変貌した。

「これで軍は大幅に強化されたな」

カエサルはそう言いながら、改革がもたらした成果を喜んだ。

「ですが、まだ本格的な戦闘は経験していません。ここからが本番です」

総司は冷静にそう答えた。彼にとって、この軍事改革は「試験段階」であり、今後のローマ全体に影響を及ぼす可能性を秘めていた。

スペイン属州統治

属州統治の任務の中心は税制改革だった。カエサルはローマ市民に適用される税免除規定を明確化し、徴税制度を透明化することで属州住民の信頼を得た。それまでの属州総督が税収増加を第一に考えていたのとは異なり、カエサルの改革は公平さを重視した。

「住民たちは大いに喜んでいますね」

総司は住民からの反応を報告しながら言った。「この税制改革のおかげで、彼らはローマに忠誠を誓うだけでなく、カエサル様個人への感謝の意を示しています」

カエサルは微笑みながら頷いた。「これが俺の狙いだ。住民の信頼を得ることで、属州の統治はより安定する。そしてこの信頼は、いずれローマ市民の支持へと繋がるだろう」

実戦への第一歩

カエサルは総司を伴い、イベリア半島西部の制圧に乗り出した。これまでローマの影響が及んでいなかった地域を制圧することで、凱旋式の資格を得るためだった。

「ソウジ、お前には戦場の空気を味わってもらう必要がある。これも経験の一環だ」

総司は養父の言葉に応えた。「はい、お父様。実戦を学ぶ機会をいただき感謝します」

戦闘そのものは短期間で終わりを告げた。カエサル軍は圧倒的な戦力を持ち、敵を次々と制圧していった。その過程で総司はカエサルの指揮の巧みさを目の当たりにした。

「お父様、本当にすごいです。この戦い方では、敵にほとんど反撃の余地がありません」

「だが、これはまだ序章にすぎない。ローマを変えるには、もっと大きな戦いが必要だ」

帰還と新たな挑戦

属州統治と西部制圧を終えたカエサルは、凱旋式を期待してローマへ帰還した。しかし、元老院派は彼の要求をことごとく拒絶し、彼を窮地に追い込もうとしていた。

「ポンペイウスの帰還が元老院派を勢いづけているようです」

総司は状況を冷静に分析していた。「彼らはお父様が執政官を目指すことを阻止しようとしています」

カエサルは考え込んだ末、決断した。「凱旋式は捨てる。俺は執政官選挙に集中する」

凱旋式はローマ市民にとって最大の栄誉の一つであり、それを諦めることは政治家としての名誉を捨てるに等しかった。しかし、カエサルは名誉ではなく、実利を選んだ。

執政官への道

紀元前60年、カエサルはフォロ・ロマーノの演壇に立ち、純白のトーガに身を包んで市民に語りかけた。その演説は情熱的で、聞く者の心を捉えた。

「ローマの未来を託してほしい。私は、市民一人ひとりのために働く執政官になる!」

総司はその姿を見て、カエサルが歴史を動かす瞬間に立ち会っていることを確信した。

終わりなき挑戦

スペイン属州での成功は、カエサルの野心をさらに燃え上がらせた。そしてその隣には、彼を支える総司の姿があった。彼らは共にローマの未来を切り開くため、さらなる挑戦へと歩み出した。

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