ラピスラズリ・オペラ
Rio✩.*˚
プロローグ
無限に広がっている闇の中で、異常な程に美しく存在しているモノ。ガラス張りの床と屋根だけの建物のようなそれは、優しく光を放っている。
中には、透明な丸テーブルに四つの椅子が並べられ光っていた。
一つの椅子はもう埋まっており、一人、いや、一柱の神が無造作に腰をおろしている。
薄く光を纏ったその神は、どこか少年のような、あるいは少女のような、子供のような、それでいて長く生きているような、不思議な容姿をしていた。
「失礼致します」
そう言って入ってきたのは、金色の明るい光を纏っている神であった。座っている神よりも強い光を放った彼女は、優しげな顔をした20代くらいの女性という見目をしている。
「アロモニア様、こちらにおかけください」
「ありがとうございます」
不思議な容姿をした神が向かいの席を指し示し、アロモニアは無表情のまま腰をおろした。
「久しぶりだな!アロモニア、あと、少年も!」
続いて入ってきた赤い光を纏った男性の姿をした神。彼は2つ埋まっている席をみやり、片手を軽くあげた。
「お久しぶりです」
「ガイア様、こちらにおかけください」
女性は無表情のまま軽く会釈し、少年と呼ばれた神はかまわず女性の右隣の席を指し示しす。
「そういや、アロモニア、イフトルのやつはまだなのか?」
「申し訳ありません。何も聞いていません」
「そうか!では、とりあえず待つとするか!」
しばらくして、強いオレンジ色の光を纏った、やや腰が曲がっている老婆の姿をした神が入ってきた。
「遅くなってすまないねぇ」
「ガッハッハッそんなに待ってないぜ!」
「皆、先程来たところです」
「イフトル様こちらにおかけください」
イフトルの言葉に、ガイアは豪快に笑い、アロモニアはやや表情を緩めて頷いた。
イフトルは、かまわず指し示された最後の席に腰を下ろす。
「では、ただ今から取引を始めることを許可します」
少年は、そう宣言すると、アロモニアがゆっくりと立ち上がった。
「本日、イフトル様とガイア様にお集まり頂いた理由は、ガイア様の所有領域にいる『勇者の因子を持つ者』を頂きたいからです。こちらができることも、当然考えてあります。また、イフトル様には見届け役として呼ばせて頂きました」
アロモニアは淀みなくそう言い切り、静かに腰をおろした。
「娘の頼みだからね、当然見届けさせて貰うよ。ということで、ガイア、どうかね。取引は」
「勇者の因子か!こちらにいても利益は無いからな!ある程度の対価があったら取引するぞ!ガハッハーッ」
イフトルが暖かい笑みを浮かべ、ガイアの方に顔を向けた。ガイアは豪快に笑い頷く。
「対価は、同じくガイア様の区域にある魔王の因子をこちらで回収するというのはどうでしょうか」
アロモニアが抑揚のない美しい声でいい、イフトルはそれを見守るとすかさず説明を入れる。
「要は、死んだ後もその残った魔力で多くの生物を殺しうる魔王の因子を持つ者を魔力ごと回収するということだいね」
「その通りです」
アロモニアは小さく頷いた。
「ガッハッハッハー!そうか!こちらには利益しかない取引というわけだな!よし、その条件、全て飲むとしよう!」
「ガイア様、ありがとうございます」
「取引成功だいね」
ガイアの声にアロモニアは無表情のまま深く頭をさげ、イフトルは優しく微笑んだ。
「取引が決まったということで、ガイア様、アロモニア様、神の契約書にサインをお願いします。また、取引は2つの因子が死んだ時、それぞれで行うとします」
「わかりました」
「了解だぜ!」
突然口を開いた少年の言葉に、アロモニアとガイアが頷くと、突如テーブルに書類と万年筆のようなものが浮かび上がる。2人はそれに書き込み、万年筆を置いた。すると、書類は何事も無かったように消え失せた。
「では、全ての世界の平和を祈って」
「「「全ての世界の平和を祈って」」」
少年は淡々と掛け声をし、イフトル、アロモニア、ガイアはそれに続く。次の瞬間、少年を残し、全ての神がその場を立ち去り、あたりを静寂が支配した。
「ふふふっ、面白いゲームが見れる予感がするよ」
不思議な神は、薄く纏った光を妖艶に輝かせ、少女のように笑う。その瞳は、何も無いはずの闇を愉快げに見つめていた。
⟡.· ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ ⟡.·
「今日は理科係の二人が休んでるから、誰が代わりにノートを職員質に運ぶのを手伝ってくれるやついるかー?」
六時間目が終わった後のホームルーム。担任の森本が教卓に手をつき、誰も手を挙げなそうな募集をしている。窓から見える校庭にあった水たまりは、いつのまにか姿を消してい
た。
「先生、こういう時は学級委員の鈴々花ちゃんがやりたいと思ってると思い
ますっ!」
鈴々花…あ、私か。呼ばれない名前すぎて少し反応が遅れた後、教卓の方に視線を退した。
「理科の皆が出したノートを運べばいいので
すか?」
「ああ、嫌なら別にいいぞ」
先生の押しつけるような同情する視線が少
し疎ましい。
「いえ、やります」
いつまで教卓の足についてるんだろ、あの
磁石。
⟡.· ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ ⟡.·
あの女性を殺せば!もう誰も消さずにすむ
んだ!殺せれば…殺すことさえ出来れば、俺はやっと死ねる!首筋に刃物つきつけ、勇気がないせいで止めるような毎日から解放され…あぁ…この俺というこの世に居てはならない存在はいなくなる。なんてすばらしいんだ!
俺はにぎっている包丁に右手の人差し指を
ツーとそわせた。指からタラタラと血が垂れ、背中がゾクゾクとふるえる。胸がドキドキして、全身からわきあがる狂気。しかし、その勢いで包丁を首につきつけると、とたんに恐くなり、まもなく包丁をとりおとした。
…大丈夫だ…!大丈夫なんだ、あのヒトさえ殺せば…殺せれば、俺だって死ぬ勇気を出せるはずだ。本当に自らの手で人を殺せれば、自分の狂悪さをこの体だって分かってくれる。
「終わりにしてやるっ!!」
俺は自分から発した、思ったより低い声に驚きながら、薄暗い1LKの部屋を出た。
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