俺が振った元カノがしつこすぎる。

れぷりか。

第1話 間上翔也は別れたのに

「だから、別れてくれ。俺と。」


「…翔也のバカ。」


 村瀬にそう言われ電話を切られた。

 元カノが今日でまた一人増えてしまった。

 別れ話の時にバカなんて言われすぎてもう何も思わなくなった。どうせ恋愛なんてこんなもんだ。

 今回で決めた事がある。

 俺はもう二度と彼女は作らない。

 いつか終わるものに時間も金も使うなんてそれこそバカすぎる。俺には到底理解できない。

 それに俺は別れ際には最低の彼氏をやると決めている。


ーーーーーー


 「急に電話してごめん。時間ある?」

 「あるよ!どしたの!」

 「優と別れたい。」

 「…なんでよ。あんなに好きって言ってくれてたじゃん。』

 「それ全部嘘。優は可愛いしクリスマス前だったら丁度いいタイミングだと思って付き合っただけ。もう疲れたんだよ。LINEもデートも全部面倒だった。何も楽しくない。ただ疲れるだけ。別れたら時間も増えて服も買えて最高だよ。もう優の彼氏する気もない。もう俺の人生に村瀬優は必要ないんだよ。だから、別れてくれ。俺と。」

 「…翔也のバカ。」


ーーーーーー


 本当に最低だ。

 でもその方が相手は俺の事を憎む。なんで私はこんな奴と付き合ったんだって。私何も悪いことしてないのにって。そうして振られた事を友達にも説明するんだろう。その時の俺は最低に映る。

 

 「そんな奴相応しくないよ!」

 「なにそいつ最低。別れて正解じゃん。」

 

 と友達は言うはずだ。やがて相手の心の傷も癒えていく。やっぱり自分ではなく翔也が悪かったんだと。そうなればやがて俺の事も忘れて別の男と幸せになれるだろう。俺は適当に趣味なり友人と遊ぶなりしてればそれで勝手に元気になる。

 俺は彼氏する時は最高の彼氏をすると決めている。最高じゃない彼氏なんて必要無いからな。


 彼女の機嫌は俺は取る。俺の機嫌は俺が取る。 

 俺が我慢して傷付けば良い。

 何でも分かる彼氏でないと意味がない。

 俺の事は話さないし頼らないし悟らせない。

 

 実際どんな相手でもこの通りやってきた自負はある。まさしく最高の彼氏だった。でもこんな最高の彼氏から振られたら最後まで力になれなかった自分を責めてしまう。だから最後は最高の彼氏を辞めて最低の彼氏をやる。

 これ以外のやり方が俺には分からない。これしかやり方が分からない以上俺は恋愛に向いてないんだと四回目にしてようやく理解した。自分でも遅すぎて呆れる。恋愛は何も楽しくない。ただ疲れて金と時間を無駄にする苦行でしかない。


ーーーーーー

 

 知らない間に寝てしまった。現在朝の十時。今日は大学が三限からあるのでゆっくり準備するとするか。

 話が変わるが俺はお洒落だ。大学生レベルでは無いくらいお洒落な自信がある。今日は最近買ったバレンシアガのデニムを履く。やはり別れた後は気分が沈むが良い服を着るとそれも吹き飛ぶな。

 やはり良い服は至高。デザイナーズは神。

 鏡を見てバレンシアガにうっとりしているとスマホの通知音が鳴った。友人の柊からLINEだ。こいつは藤野柊。俺と幼稚園児の頃から友人してる幼馴染だ。柊と書いてしゅうと読む。格好良すぎないか。ちなみにこいつは三年付き合ってる彼女がいる。本当に尊敬する。

 『昼食わね?』

 『あり。』

 『12時駅な』

 『おけいく』

 と返して俺と柊の大学の最寄り駅で集合。

 この駅のすぐ近くに俺たち行きつけの喫茶店がある。ここは席で紙タバコが吸える貴重な店であり俺たち喫煙者のオアシスとなっている。ちなみに俺はハイライトのレギュラー、柊はセブンスターだ。


 少し雑談を交わした後別れた事を切り出した。

 「お前また?」

 「もう恋愛はしません。」

 「またいつもの別れ方か。あんなに可愛かったのに。」

 「俺はこれしか分かんないからな。」

 「あんま無理すんなよ?なんかあったら俺を頼れよな」

 「相変わらず格好良すぎますって。」


 柊は改めて人格者だと痛感。善人すぎるな。

 時間なので大学に向かった。俺たちは二人とも経済学部なので授業も基本的に一緒だ。元カノである村瀬も経済学部である。流石に今日は会わないだろう。昨日の今日だしな。

 「おはよう翔也!課題ちゃんとやったかー?」

 「…やりました。」

 俺の考えが浅かったらしい。初めてのパターンだ。驚きのあまり敬語になってしまった。

 「なんか元気ないね、なんかあった?」

 「俺らってさ、もう別れたよね?」

 「別れたら話しかけちゃ駄目なの?」

 「…そんな決まりはない、けど、」

 「そうだよね!またあとでねー!」


 またあとで?


 何を言ってんだこいつは。俺かなりキツいこと言って別れたつもりなんだけど。今までの元カノ達は俺と目を合わせる事も無かったのに。しかも俺の話、途中で勝手に切るし。


 「翔也、ちょっと嬉しそうだな。」

 「どこがだよ。なんなら焦ってるわ。」


 なんであんな傷付けたのに話しかけてきてんの。付き合ってた時でさえそんなに強靭なメンタルしてた記憶は俺には無い。理解が出来ない。

 何なんだあいつは。傷付いてないのか。ここから毎日これなのか。とても耐えられないぞ俺は。死んだほうがマシまである。

 


 振った元カノに話しかけられまくるとんでもない大学生活が幕を開けてしまった。

 

 



 





























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