ゾンビVS.ひきこもり

春雨 蛙

序章

最強のひきこもり


 部屋にひきこもるようになって五年になる。

 どうにか高校までは進学できたが、その高校も入学式の初日しか登校していない。


 先日めでたく留年が決まったそうだ。

 それもこれも、全てゾンビという異形の存在を知ってしまったせいだろう。


 初めてゾンビ映画を見た小学生のあの日から、俺の人生は一変した。

 無機質な表情で人間の肉を貪り喰らうゾンビ共に恐怖し、しばらく食事も喉に通らなくなった。

 それだけで済めばまだ良かったのだが、毎晩ゾンビの夢にうなされているうちに俺は本当にゾンビの存在を信じるようになってしまった。


「ゾンビに喰われて死にたくない」


 いつしかそれが俺の口癖になり、この五年はゾンビの出現に向けて自分の肉体の鍛錬と、ゾンビへの備え以外には何も興味を示さなくなった。


 すっかり気が触れたと判断した家族に捕獲されて病院に放り込まれたのも一度や二度ではない。だが、俺はいつかこういう日が来ると本気で思っていたのだ。そして、本当にその日はやってきた。


 この物語はそんな俺が、動く死体共との血生臭い死闘の日々を書き留めた貴重な記録でもある。

 しばらくはむさ苦しい男の語りと鼻につくゾンビ講釈が続くが、どうか我慢して読んでくれ。きっとゾンビが現れた時に役に立つはずだ。

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