遅刻魔が異世界に来たのでスピードに全振りします
春ダッシュ
0話 『プロローグ』
一人の少年は激怒した。
急がば回れ?遅刻した人がわざわざ遠回りをしようなん考えに至るわけがないだろう。
何百年と人々の心に響きわたっていることわざも、今の彼の心には1ミリも響くことはなかった。
そう、彼は急いでいる、焦っている、走っているのだ。このままでは遅れてしまう。否、時計は持っていないので時間は分からないが、すでに遅れている可能性は大なのだ。
「今日は運動会だってのにっ、なんで人じゃなくてっ、、時間と競争しなくちゃいけねんだぁぁぁぁっ、はぁっ、はぁぁっ」
家に挟まれた道を必死に駆けるどこにでもいそうな普通の少年。
短めのセンター分けは清潔感がある。が、なびく半袖の体操服は汗でびしょびしょだ。
二重のきれいな目は大きく見開かれており、今にも眼球がこぼれてきそうだ。
すでに学校の正門は真正面に見えている。だが、なかなか距離があることは分かっていたため安堵する余地はない。
「ラストスパートぉぉ突っ込め俺ぇぇえ!」
短いセンター分けがオールバックのようになる。ランドセルを背負ったちみっこを追い越し、前からくる電動の自転車を華麗にかわし、正門へ突撃せんと突っ込む。
100m走のゴールかの如く上半身から高校の敷地に侵入していく。
「はぁっ、はぁぁっ、っっ、かぁっっっ」
膝に手をつき、下を向いて必死に酸素を取り込む。運動会の前にこれほど体力を削っていてよいのだろうか、なんて心配をも砕くほどの達成感をなぜか感じていた。
「お、おし、今何時だっ、間に合ったの、か」
しんどさゆえに片目を瞑ったまま校舎のおでこにある時計を恐る恐る見上げようとしたその時だ。
急な突風が唯一見開いた右目を襲う。
「う、うおぉ、なんだなんだ!目が、目がぁぁぁ!」
音もなくただ刺すように風が吹く。動くこともできず、ただ両腕で顔を守る。
その状態が10秒近く続いた。急に吹きだした突風は徐々に弱まりそよ風程度まで収まった。
「いったい何だったんだよ、こちとら急いでっ」
顔を守っていた両腕の間から覗くように目を開く。
「は?」
噴水
それはヨーロッパの広場とかにありそうな真っ白な噴水が目の前で水を吐き出していた。
「あ、ここはいったい、学校は、へ?」
寝坊した焦りで朝からまともな判断能力は持ち合わせていなかった。だがこの状況を前にいったい誰が冷静な判断などできよう。
目の前に噴水、辺りは公園の広場といった感じだ。人はそこそこおり、人?も同じくらいの数いる。
「なるほど、つまりはこの状況はあれだよな、そう!あれだあれ!」
怖さというよりわくわく、好奇心が体操服の少年を支配した。
「うぉぉぉぉお!異世界キタぁぁぁ!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
彼の名前は「涼風進(すずかぜすすむ)」。名前の過半数が「す」であること以外はただの高校3年生だ。
勉強はそこそこ、運動は走るのは得意な方だがこれと言って上手くできる種目などない。平凡、普通といった言葉が最も当てはまる、そんな人間だ。
だが一つ、ススムには欠点、というか特技とさえ言われていることがある。
それは「遅刻魔」であることだ。
高校三年間にして遅刻の総数は約40回、何がすごいって本人は学校が嫌いでも無く遅れるつもりなど毛頭ない。何なら先生の白い眼が罪悪感をより強めるため、遅刻の報告を担任の先生にするのが最も嫌な時間なのだ。
そんな彼、ススムは高校生活最後の運動会の朝にして寝坊をかました。ワクワクするほどの年齢でもなく、眠れなかったわけではないが。
そして、学校に着くや否や気付けば異世界。
これから遅刻魔ススムの異世界生活は幕を開ける。
————————————————————
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もし面白いと思っていただけたならフォロー、応援していただけると励みになります!
初めて書く小説、完結まで突っ走ります!着いてきてくださる方募集中!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます