スカジャンと剃り込みと僕の青春
七尾 蓮翔(ななお れんと)
序章:出会いの春
1972年、春の大阪。
新学期が始まったばかりの小学校。教室の窓から見える桜は風に揺れ、そのたびに花びらが舞い散る。小学四年生のナオユキは一人で座っていた。周りから「真面目すぎる」と言われ、距離を置かれていたが、それを気にするふうでもなく、彼は読書に没頭している。
昼休み、近所の駄菓子屋に立ち寄った帰り道、数人の不良が彼を取り囲んだ。リーダー格の少年が、彼のメガネを奪おうとする。
「ちょっと待てや。こんな奴相手にするなや。おもんないやろ。」
周りが笑う中、ナオユキはただ静かに立っていた。反抗する気も、逃げる気もなかった。
「何してんのや、こんなとこで。」
突然、不良たちの背後から響く声。低く、それでいて凛としたその声に、不良たちは振り返る。そこに立っていたのは、赤いスカジャンにロングスカート、長い黒髪を風になびかせた高校生の女の子。
「なんやお前……」リーダー格が言いかけた瞬間、彼女は一歩前に進み、無言で睨みつける。それだけで不良たちは逃げ出した。
ナオユキは息を飲む。彼女の佇まい、そして涼しげな表情に見とれてしまった。
「大丈夫か?」
その声に、我に返るナオユキ。しかし、言葉が出ない。彼女の存在感に圧倒され、ただ口をモゴモゴと動かすだけだった。
「……なんやお前、しゃきっとせぇや!男やろ!」
彼女はナオユキをまっすぐ見つめ、笑みを浮かべた。その笑顔は、まるで春の陽射しのように温かかった。
「な、なぁ……」ナオユキはようやく声を出す。
「なぁなぁって、うるさいな。お前、今日から『なな』な!」
「は?」
「ええやん、覚えやすいし、可愛いやろ?」
「いや、可愛いとか……俺、男やし!」
「ええやんか、男とか女とか関係ないねん。名前なんて、呼ばれたもん勝ちや!」
そう言って彼女はまた笑った。その笑顔が、ナオユキの心に深く刻まれる瞬間だった。
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