白銀のヴァンジュ

久徒をん

漂流の果て(1)

 宇宙空間を漂う銀色の船。機体に描かれた文字や数字から地球製のものだとわかる。

 エンジンが止まって文字通り漂う船の窓は暗く人が動かしている気配はない。その漂う船に大型の巡洋艦級の戦艦と思わしき船が接近した。

 戦艦から十人程の人影が出て宇宙船に取りつくと一人がドアを焼き切って慎重に続々と中に入った。

「有毒物質の反応なし」

 一人が言うと他の宇宙服を着た者達が船内を分担して調査した。

「生命維持装置発見。生命反応はこの装置にいる者のみ」

 隊員の一人がカプセル状の装置に眠っている少年と中年の男を発見した。

 数人の隊員が部屋に入って来た。

 残りの装置は電源が切れて中には粉末化した死体の残骸があった。

「生命維持装置を守る為に他の機能を停止させたのだろう。分析は基地で行う。全員帰艦」

 隊員の一人が言うと続々と船を出た。

 戦艦からワイヤーが射出され隊員が船に繋げた。

 戦艦が発進して船が曳航されて進んだ。

 太陽に似た恒星グロンを回る惑星メイセアがこの戦艦の母星である。

「厄介な拾い物でなければいいが」

 戦艦のブリッジで艦長が呟いた。

 メイセアの衛星レシスの宙域に入った時、艦内でアラームが鳴った。

「ブラーゴ軍のドレング部隊接近!」

「セルセ発進」

 艦長が言うとブリッジでオペレーターが各部署へ指示を出す声が響いた。

 メイセアと同じ大きさの惑星ブラーゴ──同じグロンを回る星だがメイセアとブラーゴの両軍は武力衝突を繰り返していた。

 メイセア軍の戦闘機セルセ、ブラーゴ軍の戦闘機ドレング。宇宙でも地上でも飛行可能な両軍の主力兵器である。

 そして──

「数が多いな。ゴレットを出せ」

 艦長が言うとオペレーターが「ゴレット発進」と指示を出した。

 戦艦から紺と灰色の巨大な人型兵器が二機発進した。

 この星の文明で作られた人型兵器は《ゾレスレーテ》と呼ばれていた。

 ゾレスレーテの《ゴレット》が戦闘機部隊が交戦する宙域に入った。

 ゴレットが高速で飛びながら両手と頭部から光弾を連射した。

 敵のドレングは次々と撃墜された。

 ゴレットが参戦してからブラーゴ軍はすぐに撤退した。

「ドレング部隊撤退」

 オペレーターが言うと艦長はホッとした表情になった。

「ゴレットを見て逃げたか。戦力になるが数が少ないから困ったもんだ」

 ゴレットなどのゾレスレーテは機体に適合する者にしか動かせなかった。

 レシスの基地に着いた戦艦と宇宙船は補給や修理を行った。

 基地で整備士達が宇宙船にメイセアへの大気圏突入に耐えられるように船体に装甲の補強を施し半日後に戦艦と宇宙船はメイセアへ発進した。

 メイセア──地上に焼け焦げた跡が各地に残り森や草原が所々に広がるこの星はかつて世界規模で大きな戦争が起き滅亡の危機に瀕した。

 この大戦の中、戦いを嫌う住民がメイセアを脱出してブラーゴへ移住した。

 大戦を生き延びたメイセアの住民は長い時間をかけて復興し各地の国を解体、それぞれ自治権のある都市国家を築いた。今のメイセアの君主は女王レナンである。

 王族が住む王都プリアスタに各地の都市国家を緩くまとめる政府機関がある。

 プリアスタと砂漠を挟んだ軍事基地に戦艦と宇宙船が着陸した。

「船が着きましたか」

 城の一室でレナンは巨大なモニター画面を通して基地にいる王子であり将軍のダンルと話した。

「はい。生存者の検査を行います」

 紺と白の軍服を着たダンルは淡々と答えた。

「事故で漂流していたのでしょう。くれぐれも丁重に」

 レナンの言葉にダンルは「わかりました」とだけ答えて通信を切った。

 レナンはため息をついて通信機器を操作した。モニターに痩せた男が映った。

「ミーク殿、ブレッツォ王とは連絡出来ましたか」

「いえ。王は多忙で連絡が取れない状況です」

 メイセアに駐在しているブラーゴ大使のミークは申し訳なさそうにレナンに答えた。

「メイセアに攻める会議でもしているのか」

 先程の息子との会話に見せた穏やかな表情とは打って変わりレナンは蔑む眼差しでモニターを睨み冷たく皮肉を言った。

「メイセア政府を通して交渉されたら王も受け入れると思いますが、この様に女王自らがあれこれ言われると話がまとまりません」

「勝手にこの星から出て行った者達の末裔が我々の星に攻め込むなど厚かましいにも程がある。話し合いに応じなければ戦うだけだ。良い返事を待っている」

 レナンはまくしたてる口調で言うと通信を切った。

 メイセアとブラーゴは事ある毎に衝突していた。

 それでも長い間なんとか均衡を保っていたがブラーゴの王ブレッツォはメイセアにある希少資源ジルマスト欲しさに軍を派遣、メイセア軍がこれを応戦する戦いが続いていた。

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