2灯目

 地元へ帰省してすぐ、先ずは何のプランもなく僕が知ってる「青い外灯」が立ち並んでいたと記憶している母校の最寄り駅のへと向かった。

 全校生徒が学校へと続く道とは反対側で、忘れ物を取りに学校へ戻った時に遅くなった夜にしか目にしていなかったので自分の記憶が正しいかと不安もあったし、佐伯さんはそもそもそんな青い外灯にピンときていなかったので、どんな物なのかを見せたかったのもあった。

 まだ明るいうちにその周辺がどうなっているのかの確認や個人的にノスタルジーに浸りたかったのもあって。


 自宅周辺もだけど学校周辺こそ本当に何もない田舎なので、中学になってもそこらで夜まで遊ぶってことは先ずない。無人駅が大半な線でもあるから、終電もめちゃくちゃ早い。確か22時ぐらいには上がり線は終了していたから、調子に乗ってそれを過ぎちゃうと親に面倒くさい程の小言が炸裂することになるからね。だから結構、基本的には学校周辺で遊ぼう、なんてことは無くて自宅周辺かもうちょっと都市開発が進んでいる大きな駅周辺で遊ぶのが普通って感じ。


 ありがたいことに僕は私立に通わせて貰っていた。恐らくだけどその駅や周辺も僕が行っていた学校が支援していた可能性もある。それらの青い外灯も、もしかすると学校が設置したのかもしれない。

 当時の先生がまだ誰か残っててくれてれば学校側に取材したかったが、帰省した当日はもう夕方だったのもありアポも取っていないので大人になった僕は少しことにした。


 そんなこんなの理由で電車を乗り継いでなんとか母校の駅まで到着したその頃には、もう太陽は沈もうとしていて丁度あちこちと外灯が点灯しだしている時間だった。LED照明は十年ぐらい持つし省エネだから昼間も点いているのかもしれないけどね。


 この駅の周辺は他の無人駅と違い自転車置き場や駐車場、自動販売機と昔と変わらず不自然なほどに設置されている。でも売店とかコンビニは無いんだよね。駐車場周辺はオレンジ色の外灯で照らされていて駅周辺は明るい。尚更まるで学校が駅そのものを「あっ旋」している空気を感じる。子供の頃はそんなのは一切気にせず感じることはなかったけど。


 通学路はここから左へ、主要道路を上がり徒歩三十分って場所にある。

 確か青い外灯は駅を出て右へ、踏切の線路を渡りそして左へと下る道がある。

 完全に周囲が暗くなる前にその下り道へと行くと、答えは直ぐに分かった。下り道の線路側は生い茂った草木が緩やかな斜面と共に沿うようにあるだけで、そのすぐ先の線路道は簡単なフェンスで囲われているだけでした。間違えたり、人生として良くないことを思い立ったり、酔っ払いや勢いで線路へと飛び出さないようにとこの道沿いに青い外灯を設置したという雰囲気を醸し出している。


 ・・・に、してもまぁ二、三十メートルは続く青い風景は少し気持ち悪い印象を受けた。

 その踏切周辺で人の動線なんかを考えながら考察していると、どんどんと暗く夜になっていった。

 そして佐伯さんは

「へぇ、これかぁ、本当に青いね。ちょっと向こうまで行ってみるね」

 と言って恐れることもなく青い斜面を動画や写真を撮りながら一人で先に歩いて行った。僕はここで一人になりたくなかったから直ぐに佐伯さんを追いかけた。

 青い外灯が等間隔で並び道と佐伯さんの後ろ姿が真っ青に染まっている。スマホで撮影しながら振り返る佐伯さんの顔も真っ青で、そして色白な肌はまるで死人かのようにも見え、ぎょっ、と少し思わず委縮した。

 僕の顔も同じように見えたのだろう。スマホの画面を見ながら


「ぎゃあっ!」

 と、決して可愛いとは言えない声が咄嗟に溢れた。

 お互いにここまでの道中、会話もそんなに無くずっと気まずい雰囲気で四時間以上、電車で着たけれどここで初めてお互いに爆笑してしまった。笑いながらお互いの顔をまた見ると、青白い笑顔がケラケラとしてキモ怖面白いというのはこういうことかと実感した。

 よく迷惑系っぽい動画配信者が許可も取らずにちゃんとしたお祓いや礼儀も無く、面白半分で心霊スポットへ行く動画を見ては胸くそ悪くしていたけど、その楽しさだけは分ってしまった。恐らくこの緊張感からの緩和だ。


 そのまま二人で青外灯の終点まで進み、そして引き返す。

 坂道の下から見上げるは、まるで異界への道のようにも見え、夏なのに寒気を感じた。僕はオカルトは好きだけど調べたり経緯や理由を調べる歴史的な要素が好きであって、けっして怖いのが得意って訳ではないんです。だからつくづくこの時、隣にいてくれる佐伯さんに感謝しました。一人では絶対無理だと思う場所に自分は立っているし、さっきの笑いの雰囲気が怖さを大分と和らいでくれていた。多分、今思えばこの時、ちょっと佐伯さんのことを好きになっていたのかもしれない。「吊り橋効果」ってやつかもしれないけどね。


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