第25話 ユキヤ一行に奇襲をかける
人狼族の村に戻ると、ちょうどホムラがエルフの里から戻ってきたところだった。
「……という次第でござるよ」
シュリの家でホムラからの報告を聞き、俺は思わず感心してしまった。
「エルのやつ、思った以上にうまいこと懐に入ってくれたみたいだな。しかも、ユキヤと他二人を分断してくれたのはでかい」
「ナザロでも三人相手だと厳しいの? あたしたちも薬で強化すれば、結構戦えると思うけど……」
「ユキヤが強すぎるせいでかすんでるが、他二人も一応Aランク冒険者だからな。ユキヤの野郎の強力な付与魔法と一緒に戦われたら、正直面倒ではある」
「そうなんだ……」
「だが、逆に言えばユキヤさえいなければ、他二人はドーピングしたお前とアイラ、エルだけで容易に制圧できるはずだ」
俺が邪悪な笑みを浮かべると、シュリがジト目でにらんできた。
「また悪いこと考えてる顔してる……」
「当然だ。俺はあいつのせいで犯罪者の
「それはそうだけど、今回は特にひどいこと企んでない?」
「まぁな。明日の朝にでも仕掛けられるように、ペドロも巻き込んで準備しておくか」
俺はくつくつと邪悪に笑ってから、ホムラのほうを見やった。
「それで、お前はどうするんだ? 俺たちとユキヤ、どっちにつく? それとも、まだ傍観者を決め込むか?」
「うーん……悩ましいところでござるな……ユキヤ殿たちも亜人種に好意的なようでござるが、彼らの行動は場当たり的で大局がまるで見えてないように見えるのでござるのよなぁ。その点、ナザロ殿は人間も人狼族もエルフも、自分に協力的な相手には分け
「労働力として使えるから、その対価を払ってるだけだ。使えないやつは容赦なく厳しくするぞ」
「そんなこと言って、戦力にもならず薬の調合もできないマリソル殿たちも助けて、彼らにもできる仕事を与えているでござるからなぁ」
ホムラはからかうような目で俺を見てから、結論を口にする。
「うむ。やはり、拙者もナザロ殿の一味に加えさせていただくでござるよ。そのほうが世界のためになりそうでござるからな」
「……おい、本当にいいのか?」
「なにか問題でもあるでござるか?」
問い返され、俺はとっさに返答に困った。
まさか「原作ではお前はユキヤの仲間になるはずだ」なんて言えるわけもないし、言ったところで頭がおかしいと思われるだけだろう。
「……いや、問題はねえよ。仲間になるなら歓迎する」
「では、よろしくお願いするでござる!」
俺がかぶりを振って手を差し出すと、ホムラは力強くその手を握り返してきた。
◆
その日の夜、俺たちは外套のフードを目深にかぶって、エルフの里に忍び込んだ。
ホムラから得た情報を元にユキヤの寝床を巨木の陰から監視しつつ、同行してきたシュリ、アイラ、ホムラと最後の打ち合わせを行う。
「お前たちはエルとフェリーナと一緒に、リーンとメアリのほうを対処してくれ。俺はひとりでユキヤと戦う」
「ねえ。本当にひとりで大丈夫なの? あたしたちじゃ足手まといかもしれないけど、せめてホムラだけでも連れて行ったほうがいいんじゃ……」
「心配いらねえよ。ユキヤの野郎は俺を殺せない。そのために色々仕込んだわけだしな」
「でも、万が一ってこともあるし……」
シュリのやつ、妙に心配性だな。
俺は苦笑して、シュリの髪をかき混ぜてから言った。
「俺ひとりで行ったほうが効果的なんだよ。それとも、俺が信じられないか?」
「……その言い方はずるいよ」
俺の言葉にしぶしぶ納得したらしく、シュリは唇を尖らせた。
それを確認してから、俺はシュリとアイラにステータス強化用の薬を手渡した。
「ホムラ、お前はドーピングなしでいけるだろ?」
「任せるでござる」
ホムラに薬を渡してもし裏切られたら、計画が全部ご破算だからな。
ホムラ自身もそれを理解して、最初のうちは信頼を勝ち得ようとしてくれているようだ。
「じゃ、俺が騒ぎを起こしたら始めてくれ」
俺の指示にうなずきを返してから、シュリたちはリーンとメアリのいる寝床のほうへ移動していった。
俺は数分ほど待ってから、最上級のステータス強化薬を口に含むと、地面を蹴ってユキヤの寝床に上空から斬りかかる。
轟音を上げて斬撃がユキヤの寝床を破砕するが、砕け散った木材の破片からユキヤが転がり出た。
やつは地面を転がりながら空色のローブを羽織り、右手には
ユキヤは驚いたように目を丸めながら、俺に視線をよこしてきた。
「すごい腕力だな……それに、エルフの里に忍び込んで奇襲をかけるなんて、相当な実力者みたいだね」
俺は何も言わずにユキヤに肉薄して斬りかかるが、やつは俺の斬撃を見極めて回避しながら、自身に付与魔法をかけた。
「でも、剣技は大ぶりで雑。戦技を出している様子もない。能力と技術がかなりアンバランスだね」
やつは俺を分析しながら、右手に持った魔杖をこちらに突きつけてくる。
「かなりの腕前みたいだけど、それじゃ僕には敵わないね」
言うと同時に、魔杖の先端から火、水、風、土、光、闇の六属性の魔弾が解き放たれる。
魔弾はそれぞれ俺の逃げ道を消すように弧を描きながら、上下左右前後のあらゆる方角から迫ってくる。
俺は剣を一薙ぎして後方以外からの魔弾を消し飛ばすと、後方から迫る火の魔弾を横跳びで回避した。
火の魔弾はそのままユキヤの元に向かうが、ユキヤはそれを魔杖で受け止めると、火の魔弾に魔力を注ぎ込んで巨大化させてから、再度俺に放ってくる。
「いいのか? なんの罪もないエルフの里が、火の海になるぞ?」
「――――っ!?」
俺の言葉に、ユキヤは慌てた様子で巨大な火弾を消滅させる。
その隙を、俺は見逃さなかった。
地面を蹴ってユキヤに接近すると、ユキヤの顔面に拳を叩き込む。
やつは俺の拳をまともに食らって、森の奥まで吹き飛んでいった。
俺は迷わずやつを追いかけると、地面に転がったやつの首に長剣を突きつけた。
「相変わらず考えの足りねえやつだな。あれから少しくらい頭が回るようになったかと思ったが、なにも成長しちゃいねえようだな」
「な、なんのことだ!? 君はいったい、僕のなにを知っているんだ!?」
「まだわからねえのか」
俺は呆れて苦笑すると、外套のフードを上げた。
俺の顔を見ても、ユキヤはまるでピンときた様子がなかったので、俺は仕方なく素性を明かすことにした。
「もう忘れたのか? 俺はナザロ・アーガイル。お前が断罪して国外追放にした、アーガイル領の元領主だよ」
「あ、あのクズ領主か!」
「おいおい、誰がクズ領主だって? お前が俺を国外追放したせいで、領民や亜人種たちがどれほど苦しんだのか、まだわかってないのか?」
「な、なんの話だ!?」
ユキヤが本当に理解していないようだったので、俺は教えてやることにした。
「俺がいなくなったことで流行り病の蔓延が止められず、新領主のナイジェルは領民を守ることより自分の富を守ることを優先し、あげくの果てにはエルフの里に襲撃をかけるくらい自分の放蕩のことしか考えてねえ。教えてくれよ、ユキヤ・ハルミネ。俺とナイジェル、どっちのほうがクズ領主だってんだ?」
「す、少なくとも、新領主は犯罪行為は行っていない!」
「ああ、そうだな。エルフの里に襲撃をかけてエルフを殺そうが、エルフの女子どもを奴隷にしようが、この国の法律じゃ罪に問われないもんな。それで、お前もそれでいいって思ってるクチか?」
「そ、それは……っ!」
ユキヤが言葉に詰まっているうちに、俺は更に畳みかける。
「奴隷にされたのはエルフだけじゃないぞ? 人狼族も奴隷として乱獲したあげく、ナイジェルの性奴隷にされていた。近くの村じゃ、滞納分の税金を一気に徴収するために、たった二人だけを残して残りを全員奴隷として接収していった。お前はこのやり口のほうが、俺の統治よりマシだって言うのか?」
「そ、そんなこと……だいたい、君が犯罪に手を染めなければよかっただけじゃないか! どうして、違法薬物の売買なんかに手を染めたんだ!」
「身銭を切って流行り病の薬を配っていたことが、お前の中では『違法薬物の売買』ってことらしいな。利益どころか大赤字出してでも、苦しんでる領民をなんとかしてやりたいと思っただけなんだがな」
「そ、そんな……」
ユキヤの顔色がどんどん青ざめていく。そこに追い打ちをかけるように、俺は邪悪な笑みを浮かべた。
「だが、お前には礼を言わなきゃな。お前のおかげで、俺は『人間なんて助けるに値しない』ってことがよくわかったよ」
「い、いったいなにをする気だ……!?」
「報復してやるのさ、この領地のすべてのバカどもに」
俺は適当な嘘を口にすると、大仰に続きを語る。
「俺の善意を踏みにじった連中に、俺の怒りや憎悪を叩きつけてやる。誰一人、許しゃしねえ。全員地獄に叩き落としてやる」
「正気か? そんなことのために……」
「そんなこと、だと? 俺の人生をめちゃくちゃにしやがった上に、俺の人生をそんなことだと言うのか!? ただ領民を救いたかっただけの俺を地獄に叩き落として、そんなことだと!?」
俺ががなり散らすと、ユキヤは怯えたように身をすくませた。
「言っておくが、俺を殺しても無駄だぞ。俺が死んだら、セルロアの街中に仕掛けた爆弾が爆発するようになってる。お前が爆弾解除なんてしようとしても、その瞬間ドカンだ。お前のせいでセルロアの住民がいったい何人死ぬんだろうな」
「な、なんてことを……!」
爆弾設置は一部ガチだが、ペドロの手のものが誰も近づかないように厳重に見張っている。
もしユキヤのバカが爆弾解除に動こうものなら、流行り病で亡くなった死者の遺体の下に仕掛けた爆弾を起動して、ユキヤに牽制するつもりだった。
当然、人死にが出そうな場所に爆弾を仕掛けてはいない。ユキヤに対しての脅しになるよう、ユキヤの探知に引っかかるように爆弾のダミーを設置してはいるが。
そこまで言ったところで、俺の超強化された知覚が遠くのほうでシュリの遠吠えを耳にした。
どうやら、あっちのほうは俺の指示通り万事うまく行ったようだ。
俺はユキヤの首筋に剣を突きつけたまま、ユキヤに告げる。
「お前の連れの女も誘拐させてもらった。考えなしのお前でも、お前が暴れ回ったらお前の連れやセルロアの住民がどうなるか、さすがに想像がつくだろうな?」
「…………ゲスめ」
「俺をここまで堕落させた元凶にそう言ってもらえるなんて、光栄だね。それで、俺の言ってることは理解できたのか?」
俺が念押しすると、ユキヤはにらみ殺さんばかりの目で俺をにらんだまま、うなずいた。
それに満足してから、俺は長剣をユキヤの首から離した。
「三日後の夜、セルロアの領主の舘で決着をつけよう。それまで、お前の女たちは預かっておく」
「彼女たちに指一本でも触れてみろ。貴様の体をずたずたに引き裂いてやる」
「そう思うんなら、今すぐそうしたらどうだ? お前の女たちもずたずたになるだろうが」
まぁ、この至近距離で魔法を撃とうとしたら、さすがに剣のほうが先にユキヤの首を跳ね飛ばすだろうな。
このままユキヤを殺してしまったんじゃ、俺の溜飲は全然下がらない。
この野郎とあの女どもは、もっと徹底的に叩きのめしてやらないとな。
「あと三日、せいぜい俺の苦しみを少しでも味わうんだな」
俺は捨て台詞を残すと、地面を蹴って闇の中に姿を消した。
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