第24話 ユキヤ一行、エルフの里にたどり着く

 ユキヤ・ハルミネは、霧に隠されたエルフの里を容易に発見した。

 霧と知覚阻害の魔法による妨害をオリジナルの付与魔法で回避し、迷うことなく霧の迷宮を突破する。


 エルフの里にたどり着くと、ユキヤの後ろをついてきたリーンとメアリが感嘆したように息を漏らした。


「こんなにあっさりとエルフの里にたどり着くなんて……やはり、ユキヤ様はすごいですね」

「ここの領主は、軍隊を率いて十日以上捜索してたって聞きましたわよ? それをこんなにあっさり見つけるなんて……」

「いや、僕がすごいんじゃなくて、僕のユニークスキルがすごいだけだよ」


 ユキヤは苦笑してから、巨木の上に築かれたエルフの里を眺める。


「木の根元に、ところどころ焼けた跡が残ってるね。たぶん、ここで激しい戦闘があったんじゃないかな」

「じゃあ、やっぱりここで新領主が襲われたってことですの?」

「エルフが抵抗したのは間違いないと思うけど、さすがに彼らを責める気にはなれないね。合法とはいえ、強引に同胞を奴隷として連れ帰ろうとされたら、誰だって抵抗するに決まってる」

「そうですわね……亜人種に対する差別的な法律については、何度も議題に上がっては潰されてきたので、わたくしも複雑な思いですわ」

「リーン様……」

「クルルカン王国の第一王位継承者としては、やっぱり責任を感じるかい?」

「ええ。今のわたくしには無理だとしても、いずれ必ず法改正を通して見せますわ。亜人種が危険人物だけではないって、ユキヤに教えてもらいましたもの」


 言って、リーンは誓いを立てるように自身の豊満な胸に手を当てた。

 一同が神妙な顔をしていると、巨木の樹上から声が降り注ぐ。


「貴様ら、いったい何者だ!? ここで何をしている!」


 巨木の樹上では、シディアスを中心としたエルフの男たちが弓を構えてユキヤたちににらみを効かせていた。

 リーンとメアリが戦闘態勢を取ろうとするのを手で制すると、ユキヤはシディアスたちに向けて声を張り上げる。


「僕たちは冒険者ユキヤ・ハルミネと、仲間のリーン、メアリです! アーガイル領の新領主が奪われたエルフを取り戻そうとして、軍勢を率いたまま行方不明になったと聞いて、こちらにお邪魔させてもらいました!」

「人間……貴様、あの領主の仲間か!? あやつは何人ものエルフの同胞を殺したあげく、女子どもを奪って行ったんだぞ!?」

「そ、それは……っ」


 ナイジェルが領主になることを間接的に手助けした手前、ユキヤはとっさに返答に困ったようだった。

 その隙をついて、シディアスは続ける。


「貴様もやつらと同じように、我らの住処を焼き、殺して踏みつけにしていくのか!? それなら、我々も黙ってはいないぞ!」

「ちょっ、ちょっと待ってください! 僕たちはただ、領主の居所を探しているだけです! 調査に協力してもらえさえすれば、あなたがたと争うつもりはありません!」

「そう言って油断させて、騙し討ちにしようという腹なんだろう!? 浅ましい人間族の考えることはお見通しだぞ!」

「ど、どうしましょう、ユキヤ様、リーン様……? 全然調査に協力してくれる雰囲気じゃないですよぉ」


 腰が引けた様子のメアリに対して、リーンは毅然とした態度でシディアスに呼びかける。


「落ち着いてください! わたくしはクルルカン王国の第一王女、リーン・デル・クルルカンです! あなたたちの犠牲には心を痛めていますが、事の真実を明らかにするためにも領主の居場所を……」

「第一王女だと!? なら、貴様のせいで亜人種すべてが苦しめられているということか!?」

「わ、わたくしのせいですって!?」

「とにかく、貴様らの言うことなど何も聞く気などない! どうしてもこの里を侵略するというのなら、我々全員を殺し尽くし、その名を未来永劫虐殺者として残す覚悟でくるがいい!」

「…………まいったな。戦うつもりはなかったんだけど、こうなったら少し大人しくしてもらうしかないか」


 シディアスの宣戦布告に、ユキヤは右手に持った杖を握り直す。

 と。


「お父様、ユキヤ様、どちらも落ち着いてください」


 緊迫した二人の間に割って入ったのは、エルだった。

 彼女はフェリーナを連れて巨木の陰から姿を現すと、ユキヤに対して頭を垂れてみせた。


「父の非礼をお詫びいたします、ユキヤ・ハルミネ様。我々エルフ族に、Sランク冒険者であるユキヤ様に対抗できる術などありません。どうか、矛を収めていただけないでしょうか?」

「い、いやっ、僕は元々戦う気なんてないんだが」

「よせ、娘よ! なぜ我々がこやつらに頭を下げねばならん! 不当に奪われてきたのは我々のほうだぞ!」

「それはわかっています。ですが、ここでユキヤ様に協力しなくては、我々の村はきっと壊滅的な被害にあいます。里の存続のためにも、ユキヤ様たちに協力すべきです」

「くっ……ならば、お前たち二人で協力すればいい! 我々は人間になど手を貸さぬからな!」


 エルとシディアスの芝居がかったやり取りに、ユキヤたちは違和感も持たずに固唾かたずをのんで見守っていた。

 シディアス率いるエルフたちが家の中に戻ると、エルとフェリーナはユキヤに向かって深々と頭を下げた。


「改めて父の非礼をお詫びさせてください、ユキヤ・ハルミネ様。先日の領主の襲撃で、気が立っておりまして……」

「こちらこそ、不躾ぶしつけに訪問して悪かったね。えーっと……」

「エルサディアと申します。こちらは母のフェリーナです」

「よろしくねぇ〜、ユキヤくん。ホント、頑固な旦那で困っちゃうわよね〜。新しい領主になってから、やけに奴隷狩りが増えてて腹が立つのはわかるんだけど」

「そ、そうなんですね」


 フェリーナがのんびりとした口調で言うと、領主交代を招いた張本人であるユキヤは引きつった顔をした。


「そうなのよ〜。新しい領主のせいで、娘もひどい目にあわされかけたんだから。領主も元凶も、見つけたら絶対ただじゃおかないわ〜」

「……お母様、そのへんで」


 ユキヤに遠回しに圧をかけるフェリーナをたしなめると、エルはユキヤに向き直った。


「ユキヤ様に関係のないことまで愚痴ってしまって申し訳ありません。とにかく……新領主はこの里に軍勢を連れて襲撃をかけ、里の住人と交戦して死者を出したあと、数人のエルフ女性を連れて去っていきました」

「なんて野蛮な……そんなことをするような男が領主になっていただなんて、王女としてお詫びいたしますわ」

「それで、新領主の軍勢はどっちに向かって行ったんだい?」

「ユキヤ様が来た方角から来て、そちらへ帰っていきました。領主の行き先がわかるとしたら、そちらのほうを調査するのがよいかと」

「そうだったのか。来る途中でそれらしい痕跡は見かけなかったな」

「もう何日も前のことですから、とっくに領主の軍勢は街のほうに帰ったのかと思っていましたが……ユキヤ様のお話だと、新領主はこの里を出たあとに街に戻らず別の場所に移動したか、何者かに襲われて行方不明になったようですね」

「……一応聞くけど、里の連中が新領主を殺したってわけじゃないんだよね?」


 ユキヤが問うと、フェリーナが目元を押さえて鼻を鳴らし始めた。


「ぐすっ……ひどいですよ、ユキヤさん。私たちは新領主の軍に襲われて、同胞を殺されたり連れ去られたりしてるというのに、この上私たちに新領主殺害の罪をかぶせるおつもりですか? それが人間族のやり方だとしたら、あまりに……」

「い、いやっ、そういうわけではなくてですね!」


 ユキヤが慌てた様子で弁解するので、エルがフェリーナの言葉に補足する。


「先ほども申した通り、我々は領主を殺していません。というより、里を見ておわかりになったかと思いますが、あれだけの軍勢を相手にまともに対抗できるほどの戦力も抱えていないのです」

「それは……確かに」


 エルフの里の人数は百人程度だが、ユキヤが樹上に見たエルフの数はその半数にも満たなかった。

 新領主ナイジェルが二百人ほどの軍勢を連れていたことと、ユキヤたちを見て即奇襲をかけてこなかった腰の引け具合を見れば、エルフの里にまともな戦力はいないという結論にいたるのは自然なことだった。


「では、領主はいったいどこに行ったんですの? 里で負けたのでなければ、街に戻ってるはずですけれど」

「この周囲には危険な魔物が多いので、彼らに襲われた可能性はあるかと思います。先日は巨大な角牛かくぎゅう……ジャイアントホーンを里の近くで見かけたという報告もありました」

「ジャ、ジャイアントホーン!? 冒険者ギルドだと、Aランク相当の手配魔物ですよね……?」


 メアリの言葉に、ユキヤが神妙にうなずいた。


「Aランクの依頼は、達成しないと領地や街が壊滅するレベルの上級依頼だ。そのレベルの手配魔物とばったり出くわしてしまったのなら、新領主の軍勢が負けてしまうのも納得だな」

「となると、新領主の生存は望み薄ですわね……」


 リーンは嘆息混じりに言ってから、ユキヤを振り返った。


「どうします、ユキヤ? ジャイアントホーンを討伐するのは大前提として、領主の捜索はかなり難航しそうですわね。領主の遺体が残っていればいいのですが、もし……」


 領主が食われていたら――という言葉を飲み込んで、リーンはユキヤに無言で問いかける。

 ユキヤはあごに手を当てて黙考してから、口を開いた。


「領主の消息を確定させるには、相応に時間が必要になりそうだね。探索用の魔法も、いくつか新しく組み立ててみようかな」

「しばらくは森で野宿生活になりそうですわね」

「…………あの」


 リーンが愚痴るように言うのに、エルがおずおずと切り出した。


「よろしければ、里の中に寝泊まりできる場所をご用意いたしましょうか? 里の者を刺激しないよう、この場所から少し離れた場所にはなってしまいますが……」

「いいのかい? 君のお父さんに怒られるんじゃ……」

「大丈夫です。父も本当は、亜人種に理解のある人間の方と友誼ゆうぎを結んだほうがいいとわかっているのですが、慎重さ故に決断を悩んでいるだけですから」

「そうか……なら、お言葉に甘えようかな」

「かしこまりました。ところで……ユキヤ様は、お二人の内のどちらかと恋人同士なのでしょうか?」

「えっ!?」

「は、はあっ!?」


 エルの問いに、メアリとリーンが同時に大声を上げ、顔を赤くして慌て出す。


「わ、私とユキヤ様が、こ、こここ恋人同士だなんて、そんな恐れ多いことありえませんよぉ!」

「わたくしだって、まだ恋人じゃありませんわよっ! そ、そりゃあもちろん、見どころのある殿方だとは思っていますが……っ」

「…………事実なんだけど、そんなはっきり否定されるとちょっとへこむね」


 二人の回答とユキヤの反応を見て、エルは即座に三人の関係性を把握し、ひとりうなずいた。


「失礼いたしました。場合によっては一部屋用意するだけでよいかと思ったのですが、ユキヤ様と女性二人の部屋は分けたほうがよさそうですね」

「そ、そうね。別にユキヤと一緒に寝泊まりするのが嫌なわけではないけれど、一応そうしてくださるかしら」

「わ、私も同じ部屋だと緊張して寝れなさそうです……」

「かしこまりました。すぐに準備いたします」


 エルはうなずいてから、フェリーナとともにユキヤたちに背を向けて歩き出す。

 里の奥にある空き倉庫に移動すると、その奥に隠れていたホムラに向けて、フェリーナが言う。


「無事、の思惑通りに進みそうだわ」


 ユキヤの魔法による盗聴を警戒し、ナザロのことをぼかして言うと、その意図を察してエルも真意が悟られぬような話し方でホムラに告げる。


「ユキヤ様の応対は私たちが務めるので、あなたは事の次第を報告しに行ってください」


 ホムラは無言でうなずくと、足音もなくその場から歩き去った。

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