第2話 運命の出会い

「……っつ……」


 じんじんと鈍い痛みが頭に残る中、重たいまぶたをゆっくりと開けた。目の前に広がっていたのは、雲一つない広い青空。どこまでも続いていくようなその景色は、まるで宙に浮いているかのように不思議な感覚を与えてくる。

普段は空をあまり見上げることがなかったけれど、たまにみるといい景色だなと吞気なことを考えいると。


「いやーごめんごめん、俺たち公園でサッカーしてたんだけど、思ったより強く蹴っちまってな。お前に当たったとおもったら派手に倒れるもんだから心配したぜ」


そういって視界の上から幼い顔がひょっこりと出てくる。


なんで学校に子供がいるんだ?というか公園?なんの話だ?若干パニックになりながらも、冷静に今の状況を確認する。


えーと…確か、未来に頼まれていたジュースを買って、教室に帰る途中までは覚えているんだけど…うーん、頭に固い何かが当たったような、違うような…。


あと少しで思い出せそうなところで、思考に靄がかかる。魑魅魍魎という漢字の雰囲気はなんとなく分かるけど、うまく書けない、あのもどかしさだ。


まぁでも、この子の言う通りなら、歩いているところにボールがぶつかって、気絶していたのかな?


ていうか、マジかよ。

頭に当たったとはいえ、小学生が蹴ったボールごときで気絶するとか、どんだけ僕はヒョロヒョロな体してるんだ?


 未来の言う通り、少し運動でもして体幹を鍛えた方がいいのかもしれない。

あいつはよく、僕の体を持ち上げて「こんなに弱っちい体してるんだから、いつか誘拐されても文句言うなよ?」って冗談を言ってくる。男の僕が誘拐されることは流石にないと思うけど、何とかしなければ。

あと、あの猫みたいに体を持ち上げるやつ、みんなの前でやってくるから恥ずかしいし、辞めさせたい…。


「おーい大丈夫か?」といいながら少年?がビシバシと結構な強さでほっぺを叩いてくる。普通に痛いから、やめてくれ。今ちょっと自分の弱さを嘆いているから。


「だ、大丈夫。いきなりのことで何がなんやらわからずボーっとしてただけだから。頭の痛みも引いてきてるし、何ともないよ……だから、もう頬っぺ叩くのやめようか!」


なおもビシバシ叩いてくる少年の腕を掴み、ぶつからないよう、慎重に体を起こして地面に座る。


周りを見渡すと、少年の言う通り確かに公園だった。公園と言っても、周りが緑のネットに囲まれていて、最低限の遊具とベンチが端の方に所狭しと並んでいるだけだ。

公園というよりも、グラウンドと言った方が正しいかもしれない。


「あれ?おかしいな、さっきまで学校にいたはずなんだけどなぁ」


実は単に思い出せてないだけで、もう放課後だったりするのか?頭にボールが当たった衝撃で、ジュースを買った後のことがすっぽり記憶から消えているとか?それとも、ジュースを買った後にボールが当たって気絶して、救急車が入りやすいようにする為とか、何かしらの理由で学校とは別の場所に運ばれたとか?

いや、でも公園でボールに当たったという事実は確定しているから、後者の仮説には無理があるか…。


うーん、状況が意味不明すぎてわからん。

まぁ、後で時間とか見るなりして情報が集まれば、どの仮説が正しいかどうかわかるだろう。

前者の仮説があってたら、この後すぐに帰ってゲームができるしラッキーだな。ゲームのイベントも始まってるし沢山周回しないと。


所々おかしいなと思いつつ、ある程度思考がまとまったところで少年?の方を向く。

少年と思われるその子の年齢はだいたい小学校5年生くらいだろうか。黒い髪はショートカットで、男の子にしては妙にサラサラとした髪をしている。瞳の色は青く、まつ毛が少し長いのが印象的だ。顔立ちは中性的で、男子にも女子にも見えるような可愛らしさがある。


服装は半袖のTシャツに半ズボンで、首周りが緩く、露出に関して無頓着というか、やや警戒心が薄い印象を受ける。小学生とはいえ、女子が着るには少し心許ない格好であるため、おそらく男の子なのだろう。言動や行動も女子にしてはなんか雑だしな。



「大丈夫っていうなら良いんだけど...?あ!そうだ!ボール当てたお詫びに、俺のチームにいれてやるよ!天才エースストライカーの俺とサッカー出来るんだから、さっきのことはこれでチャラだな」


得意げに胸を張りながら言ってくる。

なんだこいつ、普通にいやだわ。

てか高校生が子供とサッカーするとか滑稽すぎる光景だろ。いや、仲のいい兄弟みたいでほほえましいのか?しかし、体力負けして「ヒーヒー」言ってる光景が目に浮かぶ...やっぱり滑稽だな。


「あー出来れば参加したいんだけど、お兄さんこれから高校で授業あるかもしれないから遠慮しておくよ。ボールが当たったことも全然気にしてないから大丈夫だよ。それじゃあ、バイバイ」


これ以上ない爽やかスマイルで微笑みかける。

よし、完璧に年上お兄さんを演じられたな。面倒に巻き込まれる前に退散退散、いそげ~。


そういって立ち上がった時に大きな違和感を覚えた。


「あれ、おかしいな...」


立ち上がったはずなのに、目線の高さがほとんど変わらない。

それだけでない。

服装も、いつの間にか学校指定のシャツから、昔に放送されていたヒーロー番組のキャラクターがプリントされたTシャツに変わっている。靴もいつの間にか卒業したはずの、マジックテープで固定するタイプのものに変わっている。


「...」


他にも、感じる様々な違和感が胸中に渦巻き、最悪であり得ない結論を導き出す。その考えに思わず背中を冷や汗が伝う。


そんなことはない。


ありえるはずがない。


くだらない妄想だと必死に否定しようとするが、目の前の少年が口を開き、容赦なく現実を叩きつけた。


「お兄さん?高校?何言ってたんだ?どう見てもお前、は俺と同い年くらいの小学生だろ?」


...これ僕子供になってね?

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見下してくる同級生をタイムスリップしてわからせようとしたけど実は既にヤンデレでした @namonakiv

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