第2話

「なんなの? しつこいんだけど」

「そんなのお前が無視するからだろ? 最初っから素直に反応すればいいのに」

「今日は誰とも関わらないって決めてるの。ほっといて」


 それだけ言って窓を閉めると、再び激しいノック音。

 私達の家は住宅密集地ということもあって、お互いの部屋の距離はすごく近い。春希の部屋にはベランダがあり、そこからフローリングワイパーの柄を伸ばせば私の部屋に届く距離なのだ。


「もうっ! 窓が傷つくからやめてよ」

 たまらずもう一度開く羽目になった。

 ……だからその、してやったりな顔するなっての。


 同じ学年の春希は、気がついた時から傍にいた。どこへ行くにもいつも一緒で、遊ぶのも一緒、習い事も一緒。

 それが当たり前だと思っていたのに当たり前じゃなくなったのは、確か六年生の修学旅行だった。就寝前の恋バナで盛り上がっていた時に、勝手に私と春希が付き合ってるとか好きだとか皆が決めつけて。男子部屋でも同様のやり取りがあったらしい。

 それ以降、私達は冷やかされることが多くなり、それが嫌になった私は、中学にあがる時にそれまで『はるくん』と呼んでいたのを『柴田』と苗字で呼ぶようになった。


「そっち行っていい?」

 ベランダに両腕をかけて、春希が言う。

「は? なに言ってるの?」

「だって暇だからさ。どうせお前も暇なんだろう?」

「……暇じゃないもん」

「つれないこというなよ。ほら、そこどいて。飛び移るから」

「はあ!? 危ない事言わないでよ」

「だったら大人しく玄関の扉開けろよー。今から行くからな」


 私の返事を待たずに春希はさっさとベランダから離れていった。

 なんなのよ、あいつ。


 私が『柴田』って呼ぶようになってから、春希は察したのか、それとも他の交友関係が忙しかったのか、私とは自然と距離が離れていった。

 だけどこの日、四月一日だけは、春希は私の事をほっておいてくれない。

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