第2話 殺し屋 元殺し屋になる
「オヤ、絹傘君、値上げしたのかい?」
「…ええ、まぁ、不景気なもんで…」
「ふーん、そっか。まぁボクの相棒を修理してくれるとこなんて他に無いし、今までが安すぎたくらいだから良いけどね」
「では三日後に」
よろしくーと言って相棒と呼ばれる独楽の玩具(知らないと言ったら凄まじい早口で説明された)を置いて行った緑の着物の常連客を見送って作業スペースへ戻る。
机の上にはまだ作業途中のバッグや靴、その他様々なものが置かれている。
「…いくら金がないとはいえ、色々引き受け過ぎたか」
今更後悔しても遅いので作業を始める。副業のつもりで始めた修理屋で生活費を稼がなければならなくなる日が来るとは思ってもみなかった。
収入が激減した理由は簡単で今まで殺しの依頼本業を斡旋していた組織が壊滅しただけの事だった。
その日は、雨が降っていたので弱竹輝夜(読み方は分からん)という作家の殺しの依頼を受けていた。
仕事自体はいつも通りだった。
東京に来ているというターゲットが泊まっている旅館を突き止め潜入し、一人で且つカメラの無い場所、今回の場合は温泉にいるところを背後から忍び寄り喉をナイフで掻き斬る。
それだけの仕事だった。
おかしくなったのは報告と報酬のため組織の本部に向かっている最中のことだ。
前方でなんか見覚えのあるビルが爆発した。というか組織の本部のあるビルだった。
さらには爆発し炎を上げるビルの上でやたら派手なフリフリの服を着た女二人が空を飛んでいる。しかも謎の光のロープのようなもので縛り上げられて宙吊りになっているのは組織のボスと幹部達だった。
「はっはっはっは!どんなもんじゃい!…こほん、冴島先輩。今回は手伝ってもらってありがとうございます」
「いやいや、私ったらほとんど文香ちゃんに任せっぱなしで…。ところでこの人たちどうするの?」
「雷香ちゃん…知り合いの探偵さんに頼んでブタバコにGO!です!」
…そんな会話が聞こえてきたが巻き込まれて一緒にブタバコにGO!は困るので素知らぬ顔で帰った。
今思い出しても風邪ひいた時に見る意味不明な悪夢のようだ。何だったんだアレ。
一応後日、確認しに行ったが瓦礫の山と立ち入り禁止の黄色テープしかなかったのでやはり夢じゃなかったらしい。
そんなわけで修理屋の仕事に精を出さねば生活すらままならないわけである。
修理を受ける範囲を広げたところ、予想以上に様々な客が来るようになった。
「この王様…ではなくタコのキーホルダーなのですが足が取れてしまって…直せるでしょうか」
「へー楽器の修理もやってるのね。このギターなんだけどお願いできる?音の調子がおかしくて」
「この剣の研ぎ直しを依頼したいのだが…。こちらの世界に来た時に魔物と勘違いして車を斬った時に刃こぼれしてしまってな」
「あの…その…この大鎌…直せますか?いやそのぉ…うっかり萌歌ちゃんのポスターに気を取られてたら…電柱にぶつけちゃって…先っぽがバキッと…いっちゃいまして…上司にバレたら始末書何枚あっても足りなくなっちゃう……」
本当に色々な客がいるものだ。
作業しながら客を思い返していると受付から人の気配がした。
「もし、お尋ねしたい事があるのですが…」
「いらっしゃい。一覧にあるものの修理なら一覧の金額で、それ以外なら要相談でお願いしま……」
見覚えのある顔だった。というか数ヶ月前に死に顔を確認した顔だった。
「わたくしを殺した男性を探しているのですが心当たりはございませんか?」
…少しカウンターから身を乗り出して確認する。
「…足がある、ということは幽霊ではなさそうですね」
「失礼な方ですね。ちゃんと生き返っています」
「生き返った…ということは俺がしくじったわけではないですね。生き返る人間の殺しを依頼した方に問題がある」
まぁこの依頼の報酬は貰えなかったんだが
「…殺したことは否定しないんですね」
「まぁ証拠は全て隠滅したし、死んだ人間が生き返ってるのであれば罪には問われないだろうし」
「ふふふ、面白い殺人鬼ですね、あなた。気に入りましたわ。わたくしから依頼したいのですがよろしい?」
「残念ですが、雨の日以外は殺しはやってませんよ?」
「殺さない依頼です。わたくしのボディガードをやってみませんか?」
「…未経験の仕事ですね。」
「あなたほどの器用さなら大概の相手なら生かすも殺すも自在なのでは?」
「……」
「報酬はこれくらいでいかが?」
「受けましょう」
即決だった。修理屋としての売上どころか殺しより高収入だった。
「決まりですわね」
*
永い年月を生きてきた。
その中で何度か殺されることもあった。そして生き返ってきた。
この身は不老不死ゆえに
痛みを我慢し、自分の体から熱が消えてゆく感覚に恐怖し、呼吸も出来ない何も無い暗闇の中をもがき苦しんでやっと生き返る。
その繰り返しが不老不死だ
しかし、今回は違った。何の気配も予兆すらなく気がついたら生き返っていた。殺されたことにさえ周囲に広がった血を見るまで気が付かなかった。
素晴らしい腕だった。何とか一目見たいと急いでわたくしを恨んでいる人物に当たりをつけ、そこから殺し屋に斡旋する組織を壊滅するように依頼をかけ、捕まえた上司から彼の情報を聞き出した。
そして、一目見るどころかつい声をかけ、しまいには雇えてしまった。
*
「ふふふふふ……」
数日後、京都への帰りの電車の中でつい声が漏れる。
「……すみません。目立つので笑い声抑えてもらっていいですか?えーとナヨタケさん?」
「ふふふ…。輝夜で良いわよ秋水君。さて貴方にはどんなふうに責任をとってもらおうかしら?」
「責任って…何の?」
「もちろん、わたくしを殺した責任ですよ」
そしてわたくしにあのような素晴らしい死を見せてくれた責任を…ね。
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