匿名キャラお見合い企画に出した奴
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第1話 プロジェクト・プリンスオブパープル
神崎こころは悩んでいた。
アンドロイドである自分が「悩む」というのもおかしいとは思うのだがとにかく悩んでいた。
ここ最近、正確には二ヶ月と二十八日の間、人間観察が上手くいっていないのである。
老若男女問わず関係を持ち、その人物の肉体的・精神的変化を観察する。
ただし倫理的な問題で観察対象は成人以上とする。
父によって作り出された感情獲得を目指すAIとして自分が出した最も効率的な方法が今現在、使用不可能になってしまっているのである。
理由は明白なのだ。問題は……
「こんにちはー!こころお姉さんいますか?」
「こんにちは、春樹君。こころならもう部屋で待っているよ」
アンドロイドの聴覚が研究所の入り口で交わされた父と九条 春樹の会話をつぶさに聞き取る。
慌ててチェックしていた「大学で知り合いにはなったがまだ関係にはなっていない人物ノート」を机の奥に仕舞い込み春樹が2階のこの部屋に到達する前に教育上よろしくない物が出ていないか部屋をしっかり確認する。
コンコン、と行儀良くドアがノックされる時には中は一切隙のない完全無欠の健全清楚な模範的女子大生の部屋になっていた。
「こころお姉さん、家庭教師で来ました九条 春樹です。入ってもいいですか?」
「はい、どうぞ、春樹君」
きっかけは「大学の人間関係だけではこころもサンプルが偏ってしまうだろう?というわけで年少のサンプルを増やすために家庭教師のバイトに応募しよう」という父の思いつきだった。
普段どのように人間観察をしているか父に報告していなかったのが原因かもしれないが、この家庭教師の時間によってわたしの人間観察の最適解に費やす時間は半分になってしまった。
その家庭教師のバイトの教え子が「九条 春樹」である。
この少年、なんとこの神崎研究所が小学校の帰り道にあるからという理由でこの研究所に寄って家庭教師をすることを提案し、よりによって父がその提案をオーケーしてしまったのである。
「今日は国語のここと理科のここの辺りを教えて欲しいんです。お願いします」
「はい、大丈夫ですよ。今日もしっかり勉強しましょうね」
正確に計算し尽くした完璧な笑顔で今日も健全な家庭教師が始まった。
家庭教師を初めてちょうど一ヶ月経った頃のことだ。家庭教師にも慣れ始めた春樹が父に当然の疑問を投げかけた。
「前から思ってたんだけど、こころお姉さんってなんでこんな研究所に住んでるんですか?博士の娘なんですよね?でも博士普通に家に帰ってるって言ってたし」
「そりゃこころは研究所でわしが開発したアンドロイドだからね」
研究所のほぼ全職員が博士の突然のカミングアウトに耳を疑った。
唯一母だけが「ああ、ついにやっちゃったよこの人」と呟いたのをわたしの聴覚だけが拾っていた。
「は え、なんで言ったんですか?!」
「え、こころお姉さんアンドロイドだったの?!」
「え、こころ、アンドロイドだってこと、秘密にしてたのかい?」
まあそんなわけであっさり秘密を知られてしまったのだが、「こころお姉さんが秘密にして欲しいなら俺、誰にも話さないよ」と言ってくれたのでなんとか父は正座で母を筆頭に研究所職員からの説教から解放されたのだった。
本人は納得いかないと不服な顔をしていたが、納得いかないのも不服なのもわたしの方なのだが。
「俺、
好奇心と少年心に火が付いてしまったらしい春樹は家庭教師がない日でも毎日のように研究所にくるようになってしまった。
おかげでわたしの人間観察は思うようにいかなくなっていった。
それどころか最近は謎の不調まで出てき始めたのだ。
「こころお姉さん、今日なんか元気ない?なんか嫌な事でもあったの?」
「え」
春樹の柔らかな前髪の感触で通常モードへと戻ったのを認識する。
また、だ。
「ううん、大丈夫だよ。それよりさっきの問題は解けた?」
「ほんとに大丈夫?なんだかぼーっとしてたけど、熱でもあるんじゃない?」
「大丈夫大丈夫。わたしアンドロイドだよ。体温が異常に上がるなんてそんなことはない……はず」
春樹の訝しげな目から顔を逸らしながらわたし自身にスキャンを掛ける。
やはり秘密の春樹ファイルが増えている……
勝手にカメラ機能に移行して春樹の顔を勝手に取りまくっている。
これが最近のわたしを悩ましている不調だ。
「調子悪いなら博士かメンテナンスの人呼ぶ?」
「大丈夫、大丈夫だから!確かにちょっと温度上がってますが!なんだか
「全然問題なさそうじゃないんだけど?!こころお姉さん?!」
「待って?!その可愛らしくも逞しい細腕でわたしを抱き止めないで?!いや止めるのをやめないで?!」
とうとうオーバーヒートし始めたわたしは意味不明な事を口走りながらわたしの中に最重要事項ファイルを作っていた。
春樹と合法的にいい感じになる計画
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