運だけで狂気を逃れる

 大吉のクラスメイト、狂喜彩子きょうきさいこ、彩子は大吉の運の良さをその命を持って試そうとする、いわゆる『サイコパス』な女であった。


「福良君、調理室でチョコレート作ってみたんだけど味見してくれない?」

「え、いいの?」


 大吉は女子の手作りチョコということで、何も疑わずに調理室に向かう。


「さあ、この3つの中から好きなのを1つだけ食べてみて!」

 彩子は3つのチョコのうち2つに毒を混ぜ、1個だけは毒なしチョコにした。


 しかし、大吉はなんなく毒なしチョコを食べて、難を逃れる。


(コイツの強運というのは本当なのかしら? でもまだわからないわ、これならどう?)


 彩子は缶ジュースを用意し、またもや3つの中の一本だけ普通のジュースを用意した。


(今度はどうかしら。3つのうち毒なしはお汁粉缶だけ、普通は甘いものを食べたから緑茶かコーヒーに行くはず……)


「甘い物には甘いものだから、じゃあお汁粉で!」


 大吉はまたもや毒なしの缶ジュースをあっさりと引き当てる。


 その後、このようなやり取りが何度も繰り返されるが、大吉は何度やっても毒なししか選ばない。


(な、なんなの? 本当に神かなんかなの……)


 毒を仕掛けた彩子の方が恐ろしくなってきた……。


 そこに大吉の親友の不動が現れる。


「おい、大吉、一緒に帰ろう! お、チョコではないか! わしもいただくぞ!」

「あ、それは……」


 彩子が止めようとするが、不動は毒入りチョコを完食し、毒入りのお茶とコーヒーも飲み干してしまった。


「不動君、何ともないの?」

「とても美味かったわ! これで夕飯まで持つわ! サンキューな、狂喜さん」


 不動の様子に何もないことと、大吉がすべて毒なしを選んだ奇跡を目の当たりにした彩子は『神はやはり存在すると』その場に泣き崩れた。


「あ~あ、不動が勝手にチョコ食べるから泣いちゃったじゃん。あれは好きな人へ作ったものに決まってるだろ!」


「狂喜さん、すまんかった。わしも知らんかったから……」


「いいんです。私が悪かったんです。いいんです」


 勝手にチョコを食べて泣かせてしまったと勘違いする不動、そして、自分の過ちに気づき泣き崩れる彩子、その後も3人は勘違いしたままのやり取りが続いた……。


 ……翌日。


「おい、大吉、お前昨晩お腹下さなかったか? わしは昨晩、お腹壊して何度もトイレに行って大変だったわ!」

「お前賞味期限切れたモノでも食べたんじゃないの? まあ、寒くなってきたし風邪ひいたのかもしれないよ!」


 何事もなかったかのように登校する大吉と不動。


 この光景を見ていた彩子は後に大吉と不動を神とした宗教団体を起こすことになるが、それはまた別の話……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る